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「あ、フミくん。またね〜。」
「は、はい。また。」
生徒玄関に入り、それぞれの教室に向かうためろく先輩は三階、僕は一階と別れる間際、そう声を掛けられる。
そこで僕は、ようやく大きな溜息を吐き出した。
キャッキャと騒がしい女の先輩の声を遠くから聞きながら、僕はとぼとぼと教室に向かう。
朝から疲れた。ろく先輩から声を掛けられるようになったあの日からルーティンになりつつある、朝の溜息と疲労感。
まだ一限目も始まっていないというのに。
重い鞄が更に重たくなったような気分で教室に入る。窓際の一番後ろの席に腰を下ろした。
だが、ここでも新たな嵐が僕を待ち受ける羽目になる。
「ねえねえ、須藤くんってろく先輩と仲良いんだね!」
「中学の頃から仲良しだったの?」
女子だ。喋ったことも目を合わせたこともない女子が数人、僕の机を囲み始める。
「いや、特に…。」
「そうなの?だって最近、朝一緒に登校してるじゃん!」
「それは、その…。」
言えるはずがない。ろく先輩の弱味を握ってしまったが故に、何故か気に入られたかもしれないなんて。
「先輩の、気まぐれ?とかじゃないかな?」
必死で絞り出した言葉に、女子は不服の声を上げる。
「はーい、ホームルーム始めるよ〜。」
今年赴任になった中年の女教師の言葉に、心底助けられたと、まだ話し足りなさそうな顔をした女子を尻目に2回目の溜息を吐いた。
ろく先輩について、最近わかったことがある。
まず、朝が気怠い理由だ。特に気怠いのは水曜日から金曜日にかけての朝。
というのは、バイトがその前日に入っているからだ。
そして甘い匂いの正体。それは先輩の担当が、スイーツであるが故のことだ。
「…ろく、先輩。」
「なに?」
「あの、つかのことお聞きしますが、どうして僕とお昼を一緒にしようと…?」
というのは、誰かに聞かれる可能性がある朝の登校時間に聞いたわけでは決してない。
昼の休憩時間に、先輩から直接聞いたからだ。
「どうしてって、俺がフミくんと一緒に昼飯食べたいから?ってか理由とかいる?」
「…ッッ!い、いりませんが…。」
この人はどうしてこう!
きっと手作りサンドイッチであろう、具が全部違うパンを咥え流し目でそう言われれば、反論する気すら湧いてこない。
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