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「美味しい、です」
「あ、やっぱり?」
先輩の質問からしばらくして、そう答えると先輩は何かを考えているのか、「うーん」と唸りながら何もない天井を見上げた。
そして、驚くべきことを言い放つ。
「フミくん、提案!」
「え?提案?」
「そう!毎週月曜日と水曜日だけ、弁当交換しない?」
は?即座に思ったのはその一言だった。
ろく先輩に関してわかったことがまだあった。それは、意外にも突拍子もないことをさらっとしかも普通の顔で言ってしまうところだ。
さすがにその一言では理解が出来ずに、僕はとりあえず疑問に感じた最初のことを聞いてみることにした。
「その、どうして、ですか?」
「うーん、一言で言うと、俺のためかな?」
うわーどうしよう、益々訳がわからなくなってきた。
次に掛けるべき言葉が見つからず、まだ残っている弁当に箸もつけずにいると、先輩が言葉を続けた。
「俺、弁当も自分の飯も全部自分で作ってるんだけど」
「そう、なんですね」
「自分で作って食べるだけだと正直、わからないんだよ。味の変化が。だから俺の修行のために、フミくんに俺の弁当を是非食べてほしい、そして感想を言ってほしいんだ。ダメかな?」
要するに、先輩の料理を批評してほしい、僕に。
カタカタと古いパソコンのように、情報をゆっくりと処理する。
だが到底、そんな大それたことをイエスと一言、たった一言、頷ける訳がない。
「だ、ダメに決まってるじゃないですか!そんな、先輩の料理を僕なんかが無料で食べさせていただけるなんてそんなの、無理に決まってますって!」
憧れのろく先輩とこうして昼食を一緒にできるだけでも奇跡なのだ、なのにこれ以上を望めばまさに罰が当たる!
早口で捲し立てるように言うと、先輩はぽかんとした顔で僕を見る。
「せ、先輩?大丈夫、ですか?」
数分前に掛けられた言葉を、先輩に投げ掛けた。
「フミくんって、おもしろいよね」
すると先輩はまた、理解の追いつかない言葉とともに笑顔を振り撒いてきたのだ。
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