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出会いは突然、訪れる。
その日が来たのは、突然だった。
5月といえば大型連休、いわゆるゴールデンウィーク、となれば学校は休み。
唯一の癒しに会えない日々をダラダラと、小学生の頃に買ってもらったロフトベッドかリビングのソファに転がりながら、ただただ時間が早く過ぎればいいと思っていた。
「郁人!行くわよー!」
「はーい、今行きますー!」
「相変わらずダラダラしてるね、あんた。ちょっとは大翔くん見習ったら?」
「姉ちゃんに言われたくない…。」
母さんに呼ばれ、姉ちゃんこと須藤 千颯にぶつぶつ文句を言いながら玄関で靴を履く。
長期休みに帰省(といっても隣の県だが)した
大学2年生の姉ちゃんのため、今から家族水入らずで食事に行くためである。
「ほんっと生意気なんだから!たまにはね、大翔くんについてってバスケでもしたらいいんじゃない?」
姉ちゃんが言う「大翔くん」とは、家から三件隣に住む幼馴染の武藤 大翔のことである。
姉ちゃんがやたらと大翔のことを持ち出すのは、大翔が僕とは正反対の好青年だからだ。
成績優秀、バスケでは全国大会出場、もちろん男女問わずモテる大翔は、近所でも好青年として有名な存在だ。
昔、小学生の頃はしょっちゅう連んでいたこともあり、姉ちゃん始め家族は何かと大翔のことを口にする。
だが、もう高校生なのだ、しかも大翔はスポーツ推薦の有名校、かたや僕は名ばかりの進学校。
いい加減、放っておいてほしいのが本音である。
着いたのは最近開店したばかりだというフレンチ料理店だった。
「ちょっと僕、聞いてない。こんなカッコで大丈夫なの、母さん。」
「大丈夫よ〜ジャージじゃなければ。」
ニコニコとしながらそう言う母さんは、やはり呑気だ。というより、何事に対しても楽観的である。
一方で父さんも同じような性格をしているのだから、僕たち姉弟の親とは信じ難い。
扉を開けるとカランカランと昔ながらの音が鳴る。
「いらっしゃいませ、本日ご予約の須藤様でよろしいでしょうか。」
ギャルソンエプロンを巻いた見た目50代の男性に案内され、席に座る。
事前にコース料理を注文していたようで、マスターらしき男性が厨房に入っていく。
手持ち無沙汰になり、ふと店内を見回すと、母さんの言う通りにカジュアルな店のようで僕たちの他に食事をしている客の装いはかしこまりすぎていなく、ほっと息を吐いた。
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