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運ばれてきた料理は、とても美味しいものばかりだった。
席にあるメニュー表を見ればどうやら地元の食材を使っているそうで、こだわりが窺える。
けれど僕は、どこか落ち着かない気分だった。
何故なら終始、家族の話題は僕の高校生活の話題で持ちきりだったからだ。
「郁、高校はどう?勉強もついてけてるの?」
「友達は?母さんから部活には入らなかったって聞いたけど。」
家族、というより会話の中心は姉ちゃんだ。
だが、仕方ない。姉ちゃんは口は悪いが割とブラコン気質である。
僕の性格は内向的だ。故に、揶揄われることも昔はよくあった。
小学生というのはくだらないことでも騒げるもので、些細なこと、たとえば服にプリントされたキャラクターがダサいとかそんなことでも十分なネタになり得るものだ。
そうやって揶揄われ、幼かった僕が落ち込んで帰ってくると決まって姉ちゃんは怒り狂っていた。
まるで、自分のことのように。
時には両親が宥める必要があるほど姉ちゃんは、僕に対して執拗なくらい心配性なのだ。
しかも高校は滑り止め。となれば姉ちゃんのブラコン加減に拍車がかかるのはわかる、わかるのだが。
僕ももう幼い小学生ではない。それなりに自己回避の方法もわかっているつもりだ。
だから正直、そっとしておいてほしいというのが本音ではある。
「郁、どこ行くの。」
「ちょっとお手洗いに。」
久しぶりに会ったせいか、姉ちゃんの止まらないマシンガントークにやや疲れ、逃げるようにトイレへと立つ。
ようやく一息つけた、と洒落た洗面所でふうと溜め息を吐く。
姉ちゃんは好きだ。ブラコンなところも僕を心配してくれるが故のことだ、けれどそろそろ姉ちゃんも姉ちゃん自身のことに集中してほしい。
いつもは気にならないのについ、そんなことを気にしてしまうのはきっと、ろく先輩を見ていないからだ。
ああ、見たい。一目でいいから会いたい。
ろく先輩は今頃、どうしてるのだろうか。
またあお先輩の言うようにやる気のない表情で1日過ごしているのだろうか。
怠そうでもなんでもいいから一目見たい、見れば姉ちゃんの小言も全部受け流せるのに。
丸く縁取られた鏡を見ながら、想いを馳せているとトイレの扉が開く音がした。
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