始まりの日も唐突に。

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その日はもちろん、授業なんて身にもならず。 気付けば終礼のチャイムが鳴っている、ということはろく先輩の言った「学校が終わったら」の時間である。 ノロノロと生徒玄関に進みながら僕は初めて、ろく先輩に会いたくないと心底思っている。 けれど時間は無常にも過ぎる。僕は今、校門の内側に突っ立っている。 「ろく、珍しいじゃん?」 「なになに〜彼女待ち?」 ろく先輩に話しかけているのだろう、先輩たちの声が聞こえる。 「違うよ?後輩を待ってんの。」 「ええ?ろく、知り合いの後輩なんていたっけ?誰なの、その子。」 「…大事な奴、かな?」 余計に出づらくなった。大事とはつまり、あのことを知る唯一の証拠人としての意味だろう。 しかし、そんなこと夢にも思わない先輩たちは悲鳴にも似た声を上げている。 ろく先輩は知らないのだ、自分がモテているという事実を。 どうすればあの校門を通らなくても家に帰れるか、頭をフル回転させて考える。 ああ、そうだ。裏門から抜ければいい。確か、防犯上いつもは開いていないが登下校の時間だけは開放されていたはず。 そうっとそうっと忍足で裏門へ向かう。まるで忍者にでもなったようである。 「あ、君。そっちじゃないよ?」 どうして気が付かれたのだろうか。聞き間違うはずもないろく先輩の声が僕を引き留めた。 「あ、はは。あれ、こっちじゃなかったですか…?」 「…君、ひょっとして俗に言う天然?」 いえ、それはあり得ません。言いかけてなんだかこれ以上抗う気力もなくなり、僕は真後ろにいるであろう、ろく先輩へと顔を向けることにした。 「で、あの〜、なんでここに?」 「…立ってする話ではないから?」 だとしてもここは、いろいろ気になり過ぎます。 憧れのろく先輩に腕を取られ、有無を言わさぬ勢いで連れてこられたのはとあるカフェだ。 問題なのはただのカフェではない、いわゆるメイドカフェである。 あちらこちらにいるメイドの格好をした店員が、ちらちらと僕たちを見ている。 もちろん、僕ではない。ろく先輩を、だ。 確かに僕の想像が正しければ立って話でもされれば、一瞬にして先輩の取り巻きが話を吹聴してしまうのはわかる、だが何故メイドカフェなのか。 入ってからもう何回も何回も抱く疑問を性懲りも無く、僕はまだ抱いている最中だった。
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