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「こういうとこ、初めて?」
なのに、なんですかその言い方は!まるで大人のお店に間違えて入っちゃいましたみたいに聞こえるじゃないですか!
魅力の一つ、気怠ささえもまさか仇となるなんてと、恐れ多くも思いながら僕は意を決して顔を上げた。
「もちろん初めてです。」
「そうなんだ?意外といいよ、集中したい時とかね。」
「あの、それでその、本題と言いますか。」
「ああ、そう。そうだった。」
なんだか調子を狂わされっぱなしであるが、相手は天下のろく先輩。もはや必然なのか。
可愛らしいのか甚だ疑問なコスプレの店員がコーヒーとサンドイッチを運んでくれると、ろく先輩は一口啜り話し始める。
「レストランボンモマンにいたのって、君だよね?」
レストランボンモマン。一瞬、聞き慣れない単語に固まっていた。
「レストランボンモマン?って、どこでしたっけ?」
「…え?君、もしかして惚けてるの?」
なんだか恐ろしいほどに噛み合っていない気がする。けれどろく先輩の眼差しは至極真剣だ。
レストラン、レストラン。と、ようやく閃く。
「も、もしかして、近所にできたフレンチのお店、ですか?」
「…そうだよ。って言っても、移転しただけだけどね。」
なるほど、あの店はボンモマンというのか。
連れられるままで店の名前など把握していなかった自分を呪いながら、ろく先輩の言葉をヒヤヒヤと待つ。
「でさ、俺があそこでバイトしてることだけど」
「あ、あの!大丈夫です、ろく先輩!」
「え?ってか俺、名前名乗った?」
「あの高校に通う人なら全員知ってます!ってそれはおいといて先輩、心配しないでください!僕、ろく先輩推しなんで!」
しかし、時として物事は思うようにいかないと言うように、なんと僕としたことが憧れのろく先輩の言葉を遮っていたのだ。
しかも、推しだなんて。瞬間、興奮と絶望が入り混ざった感情が僕を襲ったのはもはや言うまでもない。
しん、と沈黙が流れた。もちろん、僕のせいで。
あ、終わった。さようなら、僕の輝かしい青春ライフ。
きっと今、ろく先輩は困惑しているだろう。だって「君」呼ばわりの後輩男から突然、推しですと言われ、更にはバイトという秘密を握られてしまったのだから。
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