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喪失(うしな)い続けた女 ナタリア
「むしろ貴方達に、死に往く者への”慈しみ”を期待したいものです…」
もしも、貴方達が今これを読んでいるとしたら、もう私はこの世にいないことでしょう。
この手紙は、断頭台へ向かう途中に寄った街の外れで書いています。
貴方達がお兄さんと呼んで慕っている彼も同伴でね。
何を書こうか、色々と悩みました。でも、まず最初に伝えておきたいことがあります。
貴方達の笑顔を見て、私は確信しました。
この笑顔は、私が12年前に、見知らぬ家の前へ置き去りしたあの日拝んだものと全く同じもの。
最初見た時から、なぜだか懐かしい感じがしてたけど、その時は、気が付かないフリをしていたわ。
でも、やっぱり、間違いない。
貴方達の母親は、私です。
だから、謝っておかないといけません。ごめんなさい。あの日、貴方達を置き去りにして、不幸せな日々を送らせてしまったことでしょう。
謝って許されることではないことはわかってる。
でも、死んだ後に謝ることはできないから、だから、こうして事実を伝えようと思います。
口頭で伝えようとも思いました。でも、恐らく貴方達は信じないでしょう。それに、もしも事実として受け入れたとしたら、それは貴方達傭兵にとって任務失敗でしかない。
きっと、怒り狂った貴方達に、その場で殺されてしまうから。
…死ぬ機会さえ自分で選べなくなった、愚かな母親を許してください。
ミレイユ、ミシェル。
この名前は、私が付けた名前ではないけれど、呼ばせてください。
幸せにできなくてごめんなさい。
貴方達に、愛を教え伝えられなくてごめんなさい。
全く、謝ってばかりね。
ここまで読んでくれたとしたら、私は幸いです。
ミレイユ、ミシェル、もはや私が言えた義理はありませんが、ただ、生きてください。
辛く苦しい時も、どんな時も、私は、それだけを切に願っています。
さよなら、最愛の我が子達。___
ミシェルは、手紙を宿屋の炉にくべた。そこに感情の芽生えは毛頭ない。
悲哀を感受するだけの余裕は、とうに捨て去っていたからだ。
しかし、彼はなんとなく”姉に見せない方が良い”と感じた。何故そう思ったかは、彼にもわからない。
「ねえミシェル、今なに燃やしたの?」
「なんでもないよ、姉さん」
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