第1章 サディスティック

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「僕は西京寺一徳(さいきょうじいっとく)、お見知り置きを。挨拶代わりに、ラッパ飲みを見せて貰おう!」  気付けば、麗羅は山吹会長の身体にもたれ掛かり、既にグッタリしている。そんな様子に気付いたコンパニオン衆は、両サイドから麗羅の身体を乱暴に掴むと、無理矢理正座させる。 「おうお前達、中々気が効くな。こいつの鼻を摘んで口を開けさせろ」  こうなってしまうと、もう誰にも止める事は出来ない。成るようにしか成らならなかった。弱り切った一尾の鯛が、まな板の上で静かに切り刻まれるのを待つだけだったと言えよう。 「「「はーい!」」」  元気な返事を返すコンパニオン衆。彼女らの表情もまた『華政会』重臣の7人同様、興奮に顔を紅潮させている。  やがて意識混沌の麗羅が、鼻を摘まれ無意識のうちに口を開けると、再びウィスキーが体内へと大量に流し込まれていく。  これ以上飲ませたら、死んでしまうのでは無いか?......残念ながら、虐待に快感を覚えてしまったこの者達の中で、彼女の身を案ずる者などは、誰一人として居合わせていなかった。  最早、麗羅は完全に意識を失っている。まるで静止画を見ているかのように、ピクリとも動かない。すると、待ち構えていた狼達が遂に牙を剥いた。 「おや、代理人殿はあまりに酒が美味くて寝てしまったようだ。おいおいお前達、代理人殿が風邪を引いたら加賀殿に申し訳が立たんだろう。みんなで布団に寝かせてやろうじゃないか」  やがて、上着を脱ぎ始めた『華政会』重臣とコンパニオンが、麗羅を引き摺りながら、奥座敷へと姿を消していく。  この時、麗羅の身体の中では、明らかなる異変が生じていた。ほんの10分の間で、飲まされたウィスキーの量は、ストレートで約2・5リットル。全くアルコールを受け付けない麗羅の体質において、その量は致死量に到達していた。  もし、途中で少しでも吐き出していたならば、この後、最悪の事態に陥る事も無かったであろうに......もしかしたらそれは、加賀の妻たる麗羅の最期なる意地だったのかも知れない。  残念ながら、それから10分もしないうちに、麗羅は口から泡を吹いていた。そんな危険な状態に陥っている事などお構い無しに、次から次へと見苦しき下半身を露にしていく野獣達。よだれを垂らし、髪の毛を振り乱し、次々と麗羅の身体を汚していく。  せめてもの救いが有るとすれば、それは麗羅が奥座敷に引き摺られた時点で、既に意識を失っていたことなのかも知れない。もしその時点でまだ意識が残っていたとすれば、気丈な女子だけに、きっと自らの舌を噛み切っていたことだろうに......実に酷い話だ。  そしてそんな行為は、延々2時間にも及んだと言う......やがて全ての欲求が満たされた野獣達は、頭から湯気を立ち上げながら三々五々奥座敷を後にしていく。  そして投げ捨てられたボロ雑巾の如く、静かに眠る麗羅の身体にコンパニオンはことも有ろうか、毒を吐き始めたのである。 「ちょっとあんた、いつまで寝てんのよ! いい加減起きたらどう? この淫乱女が!」  そんな暴言を吐きながら、麗羅の身体を乱暴に足の裏で揺すってみる。しかし麗羅の身体はダランと伸び切り、全くと言っていい程に反応を示さない。  そんな麗羅の様子を不穏に感じたコンパニオンの1人は、今度は恐る恐る顔を叩いてみた。やはり反応は無い。しかも......その肌は氷のように冷たかった。 「あわわわわ......」 「ちょっと......どうしたのよ?」  腰が抜け、ブルブルと震えるその者の様子に気付いた別のコンパニオンが、慌てて問い掛ける。 「死......死......死んでる......」 ............ ............ ............    この後、この事件が大きく報じられる事は無かった。麗羅は自らの意思で酒を飲み続け、挙句の果てには、急性アルコール中毒で死亡。そんな風に片付けられたのである。警察がそれ以上、深く捜査を進めなかった理由は他でも無い。それが『華政会』であるが為だった。  料亭の駐車場で麗羅を待ち続けていたボディガードは、麗羅の死を知り、崩れ落ちるように号泣したと言う。その後『華政会』の罪を一人訴え続けるものの、誰にも相手にはされず、その半年後、不運にも暴走したダンプカーに跳ねられ、麗羅の後を追うようにしてこの世を去って行った。それが事故なのか? それとも事件なのか? 結局、分からず仕舞いだ。  一方、妻の訃報を受けた加賀代議士は、悲しみこそしたものの、捜査結果に異議申し立てを起こす事は無かった。今の地位をよっぽど失いたく無かったのだろう。そんな主人の姿を、そして『華政会』の7人の姿を、天上から見詰める麗羅は今、一体何を思っているのだろうか......考えれば考える程、不憫で仕方がない。  そんな渦中の人たる加賀代議士も、不運なことに家族全員が寝静まる中、原因不明の火災に見舞われ、孫1人だけを残し、皆がこの世を去ったと言う。原因は放火だったらしいが、未だ犯人は見付かっていないらしい......  ここに、罪人7名の名を記しておく。  山吹五夫(やまぶきいつお)  琢己健吾(たくみけんご)  神原亮(かんばらりょう)  緒方憲次郎(おがたけんじろう)  徳山大地(とくやまだいち)  峯岸梁山(みねぎしりょうざん)  西京寺一徳(さいきょうじいっとく)  やがて、新聞に小さく報じられたこの『加賀麗羅死亡事故』の顛末は、時を超え、彼らの子孫へと持ち越される事となっていくのだった......
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