6.【買い出し】その5

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6.【買い出し】その5

きっかけが出来れば話は早い。店を訪れるたび、共通の話題を探っていった。その甲斐あって、彼女も独身で一人暮らしをしている事が分かり、自炊話で盛り上がる。彼女の得意料理はイタリアンだと言うことで、隠し味やトッピング等、お互いのこだわりを披露し合った。 彼女は聞き上手で、俺の話を楽しそうに聞いてくれた。頭の回転が良く、話の内容をすぐに理解する、まさに才色兼備だ。 そんな彼女も時折、うわの空の瞬間があった。その時は決まって、俯き気味で俺の腰の辺りを注視していた。 そんなある日、俺はいよいよ行動に出る。 その日は野菜の好き嫌いの話で盛り上がっていた。ピーマンが嫌いなことを伝え、子供の頃のエピソードを話している時、彼女は相槌を打ちながら視線を落とした。俺の腰の辺り、覆い包まれ窮屈そうにしているソレに視線を向けたのを、見逃さなかった。 『今だ、行け!』 心の野獣に後押しされ、カウンター越しに身を乗り出す。そして周りに気付かれないよう、彼女にだけ聞こえる声量で囁いた。 「コレが、気になるんだね」 それは一瞬の出来事だった。顔を上げた彼女は驚きを露わにした。ソレを見ていた事に気付かれ余程気まずかったのだろう、顔を背けて黙り込んでしまった。 もう後には引けない、このチャンスを逃すわけにはいかないのだ。俺は更に身を乗り出し距離を詰めた。そして彼女の耳元で囁いた。 「今度、食べにおいでよ」 才色兼備の彼女は、俺の意図する事をすぐに理解したようで、言葉を発する代わりに首を動かした。ともすれば見逃してしまいそうな程、小さな、小さな頷きを。
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