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1.プロローグ
早朝から降り出した雨は激しさを増し、透明な窓ガラスを打ち付けていく。時折、轟音を従えた稲光りが木霊し、薄暗い外の景色を浮かび上がらせる。7月にしては異常な気象だ。
『そろそろだな』
焦る気持ちを押し殺して視線を上げると、掛け時計の短針は11の文字盤に重なろうとしていた。チャイム音が雨音を掻き分けたのは、ちょうどその時だ。どうやら彼女が到着したらしい。
待ち遠しかった、やっとこの日がやって来た。道具は揃えた、準備に抜かりは無いはずだ。
『クックックッ』
廊下を進む足取りは自然と速まり、玄関ドアに伸ばす手は小刻みに震えている。想像すると鼓動は高鳴り、興奮が意識を支配していく。
『待ちかねたよ。たっぷりと、楽しませてあげるからね』
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