夏の幻想

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眼前に広がる松林を見ながら、浸かる温泉。 ツクツクボウシが鳴いている。 木々の隙間から差し込む光がオレンジがかっていて、夕暮れが近い事を教えてくれる。 ハッとした。 鈴虫の声が聴こえた気がして、もうそんな季節かと移動した目線の先に、こちらを見る目があった。 男の子? 松の間から顔をだすその子は、何も言わずにただこちらを見る。 2つか3つくらいの背丈で、どう見ても子どもにしか見えないのに、なぜかこの世のものでは無いような不思議な雰囲気を感じた。 異質。なのに、怖さは感じない。 むしろあたたかい気持ちになるような、不思議な子。 どれくらい、見つめ合っただろう。 永遠とも思えるくらい、永い時間を見つめ合ったような気がしたが、実績は1分にも満たなかったのではないだろうか。 突然、その子が視線を外し、左を見た。 反射的に私もそちらを見る。 何もない。 松林が広がるだけの景色。 すぐに視線を戻したが、あの子はもういなかった。 唖然としたまま、あの子がいた所を暫く見つめた。 すると突然、頭の中にこの松を、この自然を守らねばと言う言葉が浮かんだ。 ああ、そうか。 これは、彼との約束だ。 彼のメッセージを受け取ったからには、守らなければならないのだな。 なぜか、すんなりとそう思った。 私は、この自然を見ながら、温泉に浸かる。 松林は、朱く染まっていく。 どこからか、ひぐらしの声が聴こえる。
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