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星の降った夜
とっとと失せろと吐き捨てる声は、侮蔑に満ちていた。
威張り腐った監視兵から僅かな硬貨を投げ渡された時、陽はすっかり沈んでいた。
その昔、先祖がこの地に囚われて以来、ここに生まれた人間は国賊の末裔として奴隷も同然な扱いをされている。
男女も歳も関係なく、軍へと供給する武器の作り手として働かされ、使い捨ての末端兵として召集される以外、島を出ることは許されない。
そして、追い打ちを掛けるように過酷な戦争が始まって、もう十数年―――。
鍛冶職人だったカルディナの父も戦況悪化で兵役に駆り出され、半年も経たず届いた戦死の知らせに心折れた母は一昨年、流行り病でこの世を去った。
両親と過ごした家も工場拡張に伴って強制的に取り壊され、今や彼女の帰る宛は工場から離れた丘にある古びた城跡となった。
出来ることなら工場で寝泊まりしたかったが、就業後の工場は素行の悪い監視兵の酒場と化す。
残っていたら何をされるか分からず、工場の仲間は心配する割に、誰も家に来いとは言わない。
それだけ皆、余裕がないことは承知している。
それに比べて城跡は監視兵も近付かず、未だに現役の井戸も窯もある。
近くの森には豊富な食料もあり、既に一年以上は過ごしているので、身の安全は保証されたようなものだった。
「ただいま」
返事があったら寧ろ怖いが、癖で帰宅を告げる。
照明代わりに窯に火を焚べ、工場で拾った廃材を床に並べた。
古びた機械工学の文献を足元に広げ、配給の乾いたパンを齧りつつ拾った廃材を組み合わせる。
このパンはこの日最初で最後の食事だ。
両親に先立たれて自分の世話は自分でせねばならず、住み慣れた家も壊されたので、まともな食事は中々取れなくなった。
料理を学ぶ前に母が倒れた為、作り方も分からずカラトリーも握らなくなって久しい。
暫しの後、残りのパンを口に押し込み、出来上がった部品を握り締めて駆け足で上の階へ―――。
天井が抜け落ち、空が覗いているその大部屋には、人丈を超える機械仕掛けの竜が鎮座していた。
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