それでも歩みは止めず

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それでも歩みは止めず

 セリカ皇女が息を引き取って間もなく、カルディナ達の救助に来たカローラス軍はその遺体を回収しようとしたが、スティングレイス修道院の修道女達が待ったを掛けた。  曰く、彼女達は元帝国貴族――上流階級の妻や娘達で、夫や父親、男兄弟からの家庭内暴力や虐待から逃げてきた者達だった。 「皇女様は私達をこの修道院に招き、お助けくださったのです」  礼拝堂にて修道院の代表だという老齢の修道女はそう語った。  帝国に出戻って以来、セリカ皇女は密かに国内に蔓延る男尊女卑の風潮を是正しようと尽力し、シェール神聖国の神官長としてシェール信教の考え方さえも見直そうと動いていた。  しかしながら、根強い性差別の考えを払拭するのは容易ではなく、取り急ぎの対策として設置されたのが、このスティングレイス修道院であった。 「アクアス皇帝陛下が即位し、ご自身は疎まれているからもう皇宮には戻れないからとっ…、最後に成すべき事をしたいと…っ…」 「セリカ様はクロスオルベ侯爵様等を匿った事は自身の独断で、万一、カローラスや帝国の軍に問い詰められても、皇女の権威に逆らえなかったと答えるよう言われていました…」  棺に収められた皇女の亡骸に野の花を手向けながら、修道女達は口々に語り、その死の悲しみに堪え切れずに涙を流した。  昨日、セリカ皇女がカルディナ達を見つけて匿うに至ったのは、全くの偶然によるものだった。  スティングレイス修道院では慈善活動の一環としてイェリスの花を砂糖漬けにしたお菓子を作り、それを礼拝に訪れた人々に配ったり、近くの町で売るなどしていた。  昨日もその材料採取の為、数人の修道女が森に入っていたのだが、その際に二人がワーゲン等に襲撃されるのを目撃。  偶々修道院に来ていた皇女は、その知らせを受けて直ちにカルディナ達の救助を命じ、別行動をしていた護衛の部下に車を出させて二人を保護。隣町にいる町医者に協力を願い、フォルクスの治療に必要な血液も修道女達を説得して掻き集めた。  そして、侍女のライゼに捜索に出ている筈のヴォクシス達を探しに行かせ、迎えに来るまで匿うことを決断したのだった。
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