それでも歩みは止めず

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「その金の鍵はシェールの瞳…、サニアスタの権威の象徴(レガリア)である皇帝の冠を納めた宝物殿の鍵でございます」  沢山の花に囲われた主の棺の前、侍女ライゼはそう語り、皇宮内の詳細地図を差し出した。  セリカ皇女がカルディナに託した鍵は、彼女が密かに先帝ランギーニの病床から盗み出した物だった。  侍女曰く、アクアスからもヴォクシスの抹殺を命じられて後が無いと悟った彼女は、皇宮を出る直前に金の鍵を盗み出し、帝国とシェール神聖国を彷徨いながら、その鍵を託す相手を探していたそうだ。 「セリカ様はクロスオルベ侯爵閣下に全てを託すことを選びました。どうかその決断を無駄にはされないでください」  そう告げ、侍女はそっとカルディナの手に握られていた皇女のピルケースを取り返した。  てっきり、主人の遺品として棺に納めるかと思ったが―――、侍女はカルディナの傍らで話を聞いていたフォルクスの手を取るや、そのピルケースを握らせた。  掌に収まるその蓋には、花の彫刻が施されていた。 「ポルシェンテ卿、貴方なら上手く動いてくださると信じています」  そう告げた次の瞬間だった。  侍女ライゼは体を翻して、主人の棺の横で腰を下ろすや、隠し持っていた小刀を手に取り、自らの喉元に差し向けた。 「カルディナ、見るな!」  咄嗟にフォルクスはカルディナの目を覆い、抱きしめるように下を向かせた。 「ヴォクシス様、感謝致します」  その言葉と共に命が絶たれる音がした。  止める間もなかった。  あまりにも潔いケジメの着け方だった。 「カルディナ、このまま目を瞑ってろ」  言い聞かせながら反対を向かせ、凄惨な光景から引き離す。  居合わせた修道女達は言葉を失い、警護に居た下士官達も立ち尽くした。 「…主と運命を共にしたか」  そう呟き、ヴォクシスは血の海に沈みゆく侍女の亡骸に敬意を示した。  自決した侍女の顔には、主と最期の瞬間まで寄り添えたことを誇るように、満足そうな微笑みが浮かんでいた。
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