残酷に競う薔薇は馨しく

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 通されたのは一般人は立ち入りを制限される王宮内の談話室だった。  姉の放つ怒気の具合から叱責のような気はしたが、ソファに腰掛ける間も無く彼女はキッとノアンを睨んだ。 「貴方、本当に自覚あるの?」  開口一番、ミラは軽蔑の目で訊ねた。 「と、申しますと?」  あっけらかんと返された言葉にその目が更に鋭さを増す。  正直な所、質問の意味は解っていた。 「クロスオルベの夫君になる気があるのかと聞いてるのよ」  刺々しく畳み掛ける姉に、ノアンは溜息混じりに苦笑い。  交際開始直後から、姉はカルディナとの交際に難色を示していた。  最初にパパラッチに素っ破抜かれた時には何故、周囲を警戒しなかったと物凄い剣幕で責め立てられ、即時交際解消しろとさえ言われたくらいだった。  今に至るまでにも事ある毎に手紙や電話を寄越しては、あんな対応では駄目だとか、クロスオルベ侯爵は彼女なのだから出しゃばるなと指摘を繰り返していた。 「勿論です。私はカルディナさんの為に尽力しています。先程も財務大臣とエルファ島の支援のことで…」 「まるで、虎の威を借る狐だわ」  ナイフのように投げ付けられた言葉は、弟に向けたものではなかった。  不機嫌そうにヒールを鳴らし、ミラは乱暴にソファに腰掛けるやドレスの裾が皺になるのも気に留めず、まるで刃をちらつかせるように、真紅のピンヒールを見せつけて足を組んだ。 「“クロスオルベ侯爵は社交嫌いの初心乙女”…、聞いて驚いたわ。帝国革命作戦が動き出した今、軍の仕事と卒業間際の学業との両立で社交界にまで顔を出せないだけなのに、そんな噂が実しやかに囁かれてる」 「それは事実ではありませ…」 「お前が流したんでしょっ⁉」  バチンと手前のテーブルを叩き、姉は唐突に怒鳴り付けた。  靴が痛むだろうに力任せに組んだ脚を絨毯に落とし、噛み付かんばかりの剣幕でゆらりと立ち上がる。  何がいけないのかとばかりに作りものの柔和な微笑みを顔に貼り付けるノアンの姿は、彼女の怒りの火に油を注いだ。 「カルディナさんの為に尽力してるですって?馬鹿言わないで。軍の中じゃウダツが上がらないからって、当人が居ない場所で…!」 「社交界も戦場ですよ、姉上」  溜息を吐くように、彼は姉の言葉を遮る。  ピクリと眉を揺らし、尚も睨み付けるミラにノアンは不気味なまでに冷ややかな視線を向けた。
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