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遠い宇宙に閃光が瞬き、その衝撃波に空が揺れた。
地上の人々は世界を無に帰さんとした機械仕掛けの熾天使の消滅に安堵しながらも、共に空の彼方へと旅立った英雄と守護竜の最期に涙を禁じ得なかった。
『フォルクス君!もう戻りなさい!今の高度に居ては低酸素で…!』
高度八千メートル、戦闘翼肢の限界高度を越えた空の上、唯一人、その帰りを諦めぬ者が居た。
地上より帰還を呼び掛ける上官ヴォクシスの声にも耳を貸さず、フォルクスは機械仕掛けの翼のバッテリーが続く限りと広大な空を飛び続けていた。
「…カルディナ…っ…何処だっ…カルディナ…!」
名を呼びながら宛もなく彷徨うように群青の中を飛び回る。
少し下では彼を連れ戻そうと部下の戦闘翼肢部隊や輸送機が旋回。
彼等は既にカルディナ達の帰還を半ば諦めながらも、必死なフォルクスを止めることが出来なかった。
彼等もまた奇跡が起きる事を信じたかった。
「…っ…カルディナ…!」
凍て付く寒さを伴う向かい風と薄い酸素に肺が痛む。
吐息が白く煙る。
撃たれた脚の感覚は鈍り、手足も悴む。
それでも飛ぶことは止めなかった。
――神様、居るならどうかお願いします
カルディナを返してください
もう二度と飛べなくたって良いから
短い命に文句も言わないから
これ以上、自由を望まないから
彼女を奪わないで
彼女を返して…
そう涙ながらにフォルクスは願った。
その刹那だった。
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