傷跡

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傷跡

 無機質な病室、規則的に心拍を測る機械の音が鳴り続ける。  横たわる華奢な体にはいくつもの管が繋がり、愛らしい円な碧の瞳は瞼の裏に閉じられたまま。  カローラス王都ウェインの一角、クロスヴィッツ病院の集中治療室に、天空より帰って来た彼女が搬送されてから既に一ヶ月が過ぎていた。  フォルクスの執念に受け止められ、降り立った戦艦内で軍医による最善の応急処置を受けたカルディナだったが、極寒の空に投げ出された事よる低体温に加え、長時間の低酸素状態による影響で、脳を主に全身に重大なダメージを受けていた。  直ちに輸送機で近場の大病院に緊急搬送されたものの当初は自発呼吸もままならず何日も生死の境を彷徨った。  英雄を死なせまいとする医師等の意地とも呼ぶべき治療により峠は越えたが、依然その意識が戻る気配はなく、復興に向かい始めた王都の活気に相対するように無情に時間ばかりが過ぎていた。 「また会いに来てたのかい?フォルクス」  そんな呆れ交じりの声に、握っていた痩せ細った手をそっと離して起立。  挨拶代わりの敬礼で出迎えたヴォクシスは、気丈に微笑みながらも目元に疲れを滲ませていた。 「暇なもので…、逆に閣下はお忙しい筈では?」  彼が持ち寄った手土産を受け取りつつ、フォルクスは苦笑い。  最初はカルディナへの見舞いだったが、近頃は彼への見舞いになっていた。  フォルクスもまたカルディナに脚を狙撃された事に加え、重度の背の火傷から入院を余儀なくされていた。  彼女を取り戻す為とは言え、限界高度を無理に飛行した影響は激しく、焼け爛れてしまった翼の筋肉組織は壊死の兆候が見られた事から全て除去する手術が行われた。  もう神経接続型戦闘翼肢(バトルウィング)では飛べないが、それでも悔いはなかった。
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