心の扉

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「今度佳人さんの主治医の方に相談したいです」  湯船に浸かりながら詩織は佳人の胸に寄りかかる。 「EDの専門医に何か聞きたいことでも?」  不思議そうに顔をのぞき込む彼を詩織は意地悪くにらんだ。 「佳人さんが元気すぎるので、エッチの回数を抑える薬がないか聞きたいです」  バルコニーで交わったあと、二階のバスルームで一緒に汗を流した。だが、途中でまた佳人に押し切られて……。 「少しは加減してください!」  どう考えても佳人の性欲は並外れている気がする。もちろん、他の男性を知らないので断言はできないが、こないだまでEDで悩んでいた男性の体力とは思えない。何もまとわず体を寄せ合っていると、また彼が変な気を起こさないか気が気じゃない。 「すみません。二人きりの旅行で舞い上がっていました。東京に戻ったら善処します」  彼の弾んだ声からは、自粛する気があるようには思えなかった。 「それにしても、このお風呂は本当に広いですね」  二階の浴槽は、大の大人が二人一緒に入っても余裕がある。一階のほうが広くて浴槽も大きいと聞いていたが、光熱費がもったいないので二階のバスルームを使おうと詩織が申し出たのだ。 「今年はいい夏の思い出が作れました」 「毎年来ているのに?」 「詩織さんと来られたから意味があるんです」  佳人の長い腕が詩織を抱きしめる。かろうじて力の加減だけはしてくれているようだが。  今回の三泊四日の旅は、二人にとって濃密な時間だった。軽井沢に来たからこそ、時間の密度が濃くなった気がする。 彼が言うとおり二人が一緒だったからだ。 「佳人さん……ありがとうございます」  彼のそばにいると心が満たされる――それなのに。  こうしているときでも不安になる自分が信じられなかった。
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