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佳人はジャケットのポケットからあるものを取り出した。ベルベット素材の小さなケースに、中身の見当がついたのだろう。詩織の口から次の言葉がなかなか出てこなかった。
「それ……っ」
「ジュエリーショップでこれを受け取った日に、詩織さんからプロポーズされるなんて、もう運命としか思えませんよ」
腰が抜けたかもしれない。詩織はソファーから立ち上がれなくなってしまった。代わりに彼が詩織のまえにまわり込み、ひざまずく。
ふたを開くと、プラチナの台座にダイヤモンドが輝いていた。
「答えはもちろんイエスです。安心してお嫁にきてください!」
佳人は取り出した指輪を詩織の指にはめる――左手の薬指。サイズもぴったりだった。
「どうして……わたし、結婚の話は避けていたのに」
「忘れたんですか? 用意がいいのは証明済みですけど」
「あ……!」
思い当たる点はたくさんある。EDだったのに同居に備えて避妊具を買い求めていたくらいだ。彼なら大いにあり得る。
「これからはサプライズよりも、二人で分かち合いましょう」
「……はい!」
今日何度目かの涙が目からあふれ出した。
「うれし泣きは大歓迎ですよ」
佳人の指が詩織の涙をぬぐう。感極まって抱きついた詩織は佳人の胸に顔を埋めた。
「佳人さん……大好きです!」
「僕は、愛しています」
佳人を見上げると、彼は呼応するように体を屈めて詩織に口づけた。
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