なりたい自分に近づく一歩

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「結婚式のまえにもう一度軽井沢へ挨拶に行きましょうか」 「わたしも佳人さんのご両親に挨拶しないと……」 「あっちは適当でいいですよ。結婚式でこちらに来てもらったときにサービスすればいいので」  佳人も両親に結婚を報告した。想像以上に親が喜んでくれたので彼自身が驚いていたほどだ。電話で早く新妻に会わせろとせっつかれているのを詩織は知っている。 「新婚旅行にイギリスに行くのはどうですか?」 「せっかくのハネムーンは夫婦水入らずで過ごしましょう」  つまりイギリスは却下、ということだ。 「詩織さん、どうしたんですか? 顔が真っ赤ですよ」 「夫婦って響きが……まだちょっと慣れなくて」  彼は詩織の頬にチュッとキスを落とす。 (わたし、本当に佳人さんの奥さんなんだ)  出会ってから実質二カ月も経っていない。自分がそんな短期間で結婚を決断したなんて今でも信じられなかった。 「こんなピュアな奥さんをもらって僕は幸せです」  体を寄せてくる佳人に詩織はどぎまぎしてしまう。 「もうっ、明るいうちからやめてください!」 「週末くらい、可愛い奥さんに甘えさせてくださいよ」  入籍して間もなく佳人は帰りが遅くなった。  若宮興産との業務提携の件で何かと問題が起きているらしい。若宮グループのマイナス面は徹底的にあぶり出すつもりでいるようだ。  若宮会長は勇退、役員たちも一新することになっている。当然、瀬島社長も交代することになる。みどりは、会社から手を引かないと若宮家から完全に縁を切ると言い渡されて抵抗できなくなったようだ。彼女には若宮というブランドを捨てる勇気はないのだろう。  週末だけは佳人も自宅マンションで寛げる。限られたプライベートな時間は、新婚の二人にとって貴重なひとときだ。 「宅配便を片付けておかなきゃ……ひぁっ」  耳たぶをかまれた詩織は悲鳴をあげた。体から力が抜けてしまう。ソファーに押し倒された……はずだが、勢い余って床に敷かれたラグにずり落ちた。  すぐさま佳人に組み敷かれる。このときだけは、他者には見せない男の顔をのぞかせる。 「詩織さんは本当に敏感ですね」 「や、そこはダメですってば!」  彼の口元には余裕の笑みが浮かぶ。それに比べ――詩織は、簡単な刺激で今にも理性が消し飛びそうだ。自分でもあきれるくらい佳人の愛撫に反応してしまう。カットソーの上から胸を揉まれたら、直に触れてほしいと本能で求めるようになった。体がより強い快感をねだる。  照明の下で服を脱がされても抵抗がなくなってきた。ほんのわずかな時間で服も下着も剥がれてしまった。
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