なりたい自分に近づく一歩

4/5
前へ
/210ページ
次へ
「よかった。僕たちをつなぐ家族が早くほしいです」  熱い息とともに吹き込まれる彼のささやきに、体の芯がとろけてしまいそうだ。 「わたしも……佳人さんとの赤ちゃんならほしいです」 「この状態で煽らないでくださいよ。止まらなくなりそうだ」 「煽ってなんか……アァンっ」  佳人は詩織の足を肩まで持ち上げ深くつながる。初めての体勢だが、一番深いところまで挿入されて詩織はわけがわからなくなる。 「気持ち、いぃ……っ」 「イイですか?」  彼の誘導に詩織はこくりとうなずいた。このまま境目がなくなるくらい溶け合ってしまいたい。 「僕も、最高です」  腰の動きが徐々に速くなり、詩織は快楽の高みに一気に押し上げられた。 「好き、好きです……佳人さん……っ」    佳人は返事をする代わりにいったん腰を引き、奥へ突き刺すように打ちつけた。 「や……ああぁっ!」  頭が真っ白になった。体の奥が痙攣しているにもかかわらず、貪欲に佳人を締めつけて離さない。  彼の小さな呻きを聞いた直後、奥で熱が広がるのを感じた。薄膜越しでも伝わる熱に詩織はさらに達してしまう。  倒れ込んでくる背中を抱きとめると、無性に泣きたくなった。 怖いくらいに体が、心が、満たされている。 「愛しています……佳人さん」  詩織の言葉に応えるように、まだ息が整わない佳人が体を起こして額にキスを落としてくれる。  彼の顔からは先ほどの余裕の色は見えなくなっていた。 目の前にはただ、詩織に溺れた男がいる。 「だから、煽られると止まれませんよ」 「あ……っ」  詩織に中の彼自身が、硬度も質量も増した気がした。 「詩織……っ」  佳人の囁きが朦朧としていた意識を現実に引き戻した。  初めて、名前を呼び捨てにされたのだ。どんな事態でも「詩織さん」と呼んでいた彼が。  女性を呼び捨てにするとしたら、未来の妻か娘――という彼の言葉を思い出した。  もう、自分は佳人の妻なのだ。 「佳人さん」  胸が熱くなって、詩織の唇は夫の名を紡いでいた。  ベッドに移動してからも、何度か避妊具を替えて佳人とつながった。途中から達した回数を数えるのも忘れ、二人で腰を揺らし続けた。
/210ページ

最初のコメントを投稿しよう!

940人が本棚に入れています
本棚に追加