魔法

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魔王によって押し付けられた平和の希求という仕事の達成方法を、シュタイナーは追加で考えなければならなくなった。しかし勉強と運動を毎日必死にこなした体ではそんな余裕もなく、すぐに床に入って眠りに落ちてしまうのが実情であった。 復活から3ヶ月ほど経ったある日、シュタイナーは深淵魔法の研究をしていた。 深淵魔法とは、この世の深淵に触れ、理解することで、最も原始的な力を限りなく効率的に使用することができるというものである。しかし精神的にも肉体的にも負荷が大きく、並の者では耐えられず自爆するか、悪に心を支配されて"闇堕ち"することになる。 シュタイナーは深淵魔法の模倣、深淵魔術を得意とする変わった魔術師だった。 周り一体を見渡しても何も無い更地。そこでシュタイナーは『紅焔空(アスラディア)』という深淵魔法の無詠唱発動を試そうとしていた。 手をかざして紅焔空のイメージをすると、手から黒っぽい赤色の細長い光が飛び出した。その光が目標に達するより早くシュタイナーは飛行魔法で空に飛び、その場を離れようとした。しかしシュタイナーが飛んだ瞬間には既に細長い光は目標に達しており、一瞬の沈黙の後、とてつもない衝撃波が周り一体に伝わった。 シュタイナーは咳をして起き上がると、あたり一体は草や石ころすら残さず消し飛んでいた。魔法を放った目標地点では地面が消えており_____ように見え、ぽっかりと黒い口を開けていた。 「さすがは我が君。もう魔法をこんなレベルで扱えるとは。」 背後には、土埃すら被っていない紳士的な姿のトレントが立っていた。 「何の用だ?」 「あと数日でご出発なので、細やかな予定のすり合わせをと思いまして。」 「前口上は必要ない。」 「ええ……実は一つだけ、お願いがあります。」 「……何だ?」 トレントが一度もお願いなどをしたことがなかったので、シュタイナーは驚きつつも尋ねた。 「どうか、死なないでください。あなたは魔王様が遺してくださった最後の希望です。」 その発言にシュタイナーは更に驚かされた。トレントはシュタイナーが人間たちのもとへと戻ったら危険が待ち構えているとでも考えているようだった。 「向こうはいま危険なのか?」 「それは分かりません。しかし考えてもみてください。人間たちからすればあなたは勇者であったはずですが、50年経ってみれば以前と容姿が変わりない勇者が魔法を使い、世界に平和をもたらすという名目で魔族との争いをやめさせようとするのです。」 それでシュタイナーは合点がいった。納得したような声でシュタイナーが続く。 「つまり今俺が戻っていっても向こうからすれば俺が信用できないどころか、魔族の一味とさえ思えてしまうだろうということか。」 「ええ、まさにその通りです。」
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