出発

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シュタイナーは少年が暴れるのを抑えるため、うつ伏せになっている少年の肩を極めながら片足を乗せて体重をかけた。 「俺は争いたいんじゃないんだ。ただここが何の場所か知りたい。」 シュタイナーは背後に幾人もの魔力を感じた。全員が自分の存在を隠そうとしている恣意的な魔力だった。 「何事だね……はぁ、キュラン。」 背後から一人の若い男が出てきた。黒い髪の毛をオールバックにした、ナルシスト的な性格を感じさせる顔だった。膝ほどもあるコートを羽織っていて、中はいかにもという中世貴族という格好だった。 「せ、先生!違うんです!これは……」 「言い訳はやめなさい。いずれこうなると言ったでしょう?」 そう言うと男はこちらにつかつかと早歩きで歩いてきた。シュタイナーに腕が届く位置に来た途端、男は恐ろしく早い速度で拳を振り上げて正確にシュタイナーの顎を狙った。 シュタイナーはそれを避け、後方、門のある方に飛んだ。 「さすがの反応ですね。キュランはまだ子供ですが、我が校の生徒の中でもトップを争う実力で、それなりに将来も期待されています。それを破るとなれば……」 するとキュランと呼ばれた少年は否定しようと体を起こしたが、次の瞬間男に抱きかかえられ、持ち上げられた。 「しかしこれ以上あなたの力試しに付き合う気はございません。」 男はそう言うと少年を離れたところに下ろした。するとたくさんの少年少女が物陰から出てきた。魔力を隠していた者たちだろうか、とシュタイナーは予想した。全員がキュランと同じような紺色の服を着ていたが、イメージとは違って男女揃ってズボンを履いていた。 「だからそれは勘違いなんだ。俺はたまたま通りがかった旅人だ。」 「ただの旅人がそんなに喧嘩腰の魔力を出しますか?」 そう言うと男はシュタイナーに向かって飛びかかってきた。男は拳闘をメインにして戦うスタイルらしく、打撃と魔術を絶妙なバランス、タイミングで絶え間なく打ち込んでくる。 (喧嘩腰……?俺はいつも通り魔力を抑えて……) 素早く打ち込まれる打撃と魔術をいなしながら、シュタイナーは気づいた。魔法の習得によって自分の魔力が以前よりも増大しており、かつ魔族領ではそれを隠す必要がなかったので、魔力が漏れ出ていたのだ。 (初歩的なミスだ……) シュタイナーが急いで魔力を抑えると、男は攻撃の手を止めた。 「ようやく気づいた、という感じですね。その態度がまさに喧嘩腰だ……」
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