目覚め

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『四天王』の3人もついでに食事をとるらしく、4人で食卓を囲んだ。 「シュタイナー様はどこまで覚えておられますか?その様子ですと我々のことは覚えておいでのようですが?」 若い男がシュタイナーに訊ねた。シュタイナーは少し考え込んで答えた。 「お前たちのことは覚えている。トレント、アレス、そしてエレアだ。エスタも……最期まで覚えている。」 シュタイナーは若い男、老齢そうな男、そしてもう1人の黒髪をポニーテールにしている美しい女を目で追って言った。そして顎に手を当てて覚えている限りの記憶を順番に思い出していった。 「やはりお前の言う平和には納得できない……俺たちの王は定められた法によって決められるんだ。決して侵略によってではない。」 シュタイナーが肩の流血を抑え、息を切らしながら言った。その髪は多少乱れてはいたが、現在とほぼ変わらない。綺麗な黒髪を、前髪は目の下あたり、横は耳に多少かかるほどの長さに伸ばしたままのような髪型だった。 「千年も前に作られた法律が今も適切に機能すると思っているのか?いまの首脳はどの国の者も朽ちかけ、人間たちは無意味に同じ種族同士で対立している。有能な者たちが無意味に死んでいる。奴らに正常な判断ができていると思うのか?」 シュタイナーと向かい合って立つ男が言った。男は黒髪に赤目の整った容姿をしており、黒一色の服を着ている。 「事実、ヴィルセルンはお前のみをこの城に派遣させた。それが正常な判断だと言えるか?お前が国に必須の人材だと分かっていないのだ。あの魔具の性能を過信して魔術師を不要とした王国政府は正常か?その方針のおかげで今の国内の治安は最悪だろう。国王は交代され、新たな指導者のもとで歴史を繰り返させないようにする必要があるんだ。不要な争いも形だけの権威も必要ない!」 男は説得力ある堂々とした話し方でシュタイナーに語りかけた。 「人間は間違いを何度も犯した。それはこの世界でも元いた世界でもそうだ。だが俺は人間を信じている。人間は変われる、学んで成長できると。そうして俺たちは文明と国家を形作ってきた。それにたとえ政策に間違いがあったとしても、それは国王の権威と法を暴力によって捻じ曲げていい理由にはならない!」 シュタイナーはそう返すと男の懐に飛び込んだ。持っている剣が男の胸を突き刺すかに思えた時、男は体を曲げてその剣を避け、逆にシュタイナーの懐に入った。そしてシュタイナーの力を利用してシュタイナーを宙に放り投げた。しかしシュタイナーは空中で体を回転させて再度攻撃を仕掛ける準備をする。男はそれを回避してカウンターの拳を腹に入れた。 「俺は6000年間人間を信じていた。」 シュタイナーは呼吸ができなくなり地面に伏せたが顔だけは上げてしっかりと男を見据えていた。 「魔王様!」 その時広間に入る扉から顔色の悪い痩せた男が入ってきた。『四天王』トレントの側近フラーである。諜報活動などを専門としており、顔にはちょび髭を蓄えている。 「ご無礼をお許しください。恐れながら申し上げます、暗黒神エラボスが戦闘に参加、それによりエスタ様が重傷との事です。」
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