目覚め

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「ここまでが俺の覚えている記憶だ。」 そう言うとシュタイナーは思い出話を締めくくった。 「ではその後のお話をさせていただきます。」 『四天王』トレントがあとを引き継いで話をし始めた。 「現在は、あの魔王城での出来事より50年が経過しています。」 トレントは魔王の死をかなり婉曲して表現した。シュタイナーは驚きに目を見開いた。 「……50年だと?」 「えぇ、正確には49年と8ヶ月です。」 「だが俺は歳をとっていないようだった。鏡を見て確認した。」 「えぇ、魔王様は仰られたのでしょう?お前は自分で思っているより生きるぞ、と。魔王様は最期の瞬間、あなた様に不老不死の魔法をかけました。」 「不老不死の魔法!?そんなもの実在したのか!」 シュタイナーは驚きに立ち上がらんばかりの興奮をみせた。 「えぇ、事実我々『四天王』と魔王様は不老不死でございます。」 「魔族が極端に寿命が長いという訳ではなかったんだな……だがそんなものあるならなぜエスタは……」 「不老不死と言いましたが、正確には少し違います。不老ではあるのですが、生き物の心を維持するために必要な魂を傷つけられ、壊された時と、首と胴体が切り離された時だけは死んでしまいます。エスタの場合は魂を……」 トレントが寂しそうに目を落とした。シュタイナーはトレントのそんな感情も無視してただ愕然とした。魔族と人間との魔法・魔術の技術に歴然の差があることは分かっていたが、これほどまで魔法が発展していたとは思わなかったのだ。 「つまりあいつは大陸を分断してどんな生物も通れない(シールド)をつくり、その上俺に不老不死の魔法をかけたということか?」 「それだけではありません。あなた様が意識を失われたあと、魔王様は神々を追い払いました。数百年はこちらの世界に来れないほどの被害を与えて。」 トレントが誇らしげに答えると、シュタイナーはまたもや愕然とさせられた。自らが殺そうとしていた魔王というのは、この世のどんな生物よりもはるか先を進んでいて、全ての神さえ滅ぼしかねない力を持っていたのだ。 「ならなぜ俺は50年もの間眠っていたんだ?」 「不老不死という魔法は傷がすぐ治るというものではありません。あのあとのあなた様は体力、魔力共に尽きておりましたし、致命傷に近い傷をいくつも負っておりました。それを体が自然治癒するまでに50年の年月を要したというわけです。もちろん我々も治癒の魔法をかけていましたが。」 「なるほど……人間たちは魔王の考えを知っているのか?」 「ええ、魔王様があの大魔法を発動する直前、全世界に轟くようなお声で説明しました。魔族に対しては魔王はまた帰ってくるとも仰っておりました。」 「ふむ……ところで俺は既に50年近い職務怠慢をしているわけだが、このあと俺はどうするべきだ?」 「本来は壁がまた開くまでの50年の間に職務と我々魔族の魔法について学んでいただく予定でしたが、それらを4ヶ月で全て終えていただきます。」 トレントがにこやかな涼しい笑顔で無理難題を言ったのに対し、シュタイナーは深くため息をついて頭をゆっくりと左右に振った。 「ヴェルト、俺は既に約束を果たす自信がなくなってきた。」
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