魔法

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魔法

50年の眠りから目覚めたその日から魔法と政治知識の勉強が始まった。シュタイナーはまだ重い体を何とか起こして城の中庭に向かう。 「魔法は私がお教えさせていただきます。」 トレントが仰々しく礼をしたその姿はまさに紳士であった。 「人間たちの使っている魔術も、我々の使う魔法も元を辿れば同じなのです。魔術と魔法の異なる点は表面的には分かりませんし、そもそもの話、魔術というのは魔法の模倣に過ぎません。」 そう言うとトレントは両手にそれぞれ炎を出してみせた。 「右手のものが魔法、左手のものが魔術によってつくられた簡単な炎です。この状態では両者にほぼ違いはないように思えますが、状況を変えればさまざまなところに違いが現れてきます。」 そしてトレントは両方の炎を人差し指の上で、マッチの炎程度の大きさにしてみせた。その後2つを近づけ、思いきり息を吐いた。すると魔術の炎は消えたが魔法の炎は元の形にすぐに戻った。 「このように、炎が小さくなったあとでも違いがあります。一見些細なことに見えるこの違いが、戦場ではどれほど重要なものかということはシュタイナー様にはよくお分かりでしょう。他にも」 トレントは炎の形を維持したままできるだけ火力を上げようとした。すると両方とも青い炎に変わったが、魔法によってつくられた炎の方が明らかに濃い青色をしていた。 「私の力ではこの大きさの炎はこの温度にするのが精一杯ですが、シュタイナー様はすぐに私を超えられることでしょう。私の得意とする精神魔法があらゆる精神魔術よりも強度なのは、魔法というものがより原理的で本質的であるからです。」 シュタイナーは昨日から驚き疲れていた。50年の眠りから覚めた彼は今のところ驚きと愕然の感情しか感じていないように思えた。 「どのようにして魔法を学べばいい?」 「理解と実践です。魔王様の大書庫には世界中から集めたありとあらゆる知識の本があります。中には魔王様ご自身が書かれたものまで存在します。それらを読み、自らの体でお試しになられればすぐに必ずできるようになりますよ。」 「……不老不死の魔法もか?」 そうシュタイナーが言うとトレントは難しそうな顔をした。 「実は我々もあの魔法の仕組みや方法は知りません。魔王様は生命に関する魔法、魔術について随分ご熱心に研究されていたようですが、その内容は我々には明かしていただけませんでした。魔王様の研究部屋には何重もの封印と呪いがかかっており、外からは絶対に開けることが叶いません。」 「そうか……残念だな。50年前、死なせたくないと心から思う人間が何人もいたんだが。」
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