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魔王の研究部屋に行くと、様々な大きさの鎖で両開きの扉はぐるぐるに固定されており、試しにその鎖を切ってみようにも強度な魔法によって阻害されてしまった。扉の隙間を鎖がどうやって通り抜けているのか目で見ても分からなかった。
「魔王様は真の意味での自分だけが入ることが出来る、と仰られておりました。」
トレントがいつの間にかシュタイナーの隣に立っており、物々しい雰囲気の扉を眺めて言った。シュタイナーがドアノブを捻ってみるが、もちろん扉は開かなかった。
「真の意味での自分?」
「その意味は私にも分かりませんでした。『四天王』の誰一人として分からなかったでしょう。」
シュタイナーは魔法の勉強と並行してこの扉の解除に挑んでみようと思った。
試しに炎の矢を放つ魔術を扉に向かって打ち出してみると、その炎の矢は扉に届いた瞬間に完全に消え失せ、しかもそれと同時にシュタイナーの体が痺れた。シュタイナーは膝から床に崩れ落ち、自らの体の制御が聞かないことに混乱していた。
トレントは傍でクスクスと笑っていた。
「我々も何度も同じ目に合いましたよ。」
痺れが治まってきて、シュタイナーはゆっくりと立ち上がって言った。
「そういうことは先に言ってくれ……」
「聞かれないものは答えられませんよ。」
そう言うとトレントはまたニヤついていた。
「しかし、どうやってこんな事をやっているんだ?封印も、あの強力な反撃も全く仕組みが分からないんだが。」
「それも我々の共通の研究対象の一つです。ここには私たちが知りえないあらゆる世界の秘密が隠されていると私は思っております。魔王様は真の意味での自分以外は入れないとは言えど、入ってはいけないとは言わなかったのですから、入室が叶ったとしても咎められることはないでしょう?」
シュタイナーは『四天王』のこういうところが好きだった。魔王を崇拝し従順でありながら知的好奇心に溢れ、さまざまな言葉尻をとってしたいことをできるように目を光らせている。シュタイナーはこんな側近を持った魔王を幸せだろうとは思いつつも、羨ましいとは全く思うことができなかった。
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