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「政治、国家運営に関しては私が担当させていただきます。」
白髪をオールバックにして無精髭を生やした老人、『四天王』アレスが言った。彼は記憶の専門家でもあり、魔法によってさまざまな記憶を操ることが出来る。
「まずこれらをお読みください。この世界における今までの政治の歴史が大まかに書かれております。明後日までにお願いします。」
そう言うとアレスは分厚い本3冊をシュタイナーに手渡した。シュタイナーは3冊を胸の前でしっかりと抱えなければいけなかった。
「……明後日?」
「ええ、明後日です。」
シュタイナーは3冊を持って魔王の書庫へと行った。自室で読むと今の体の状態ではすぐに寝てしまいそうだったからだ。魔王の書庫には『四天王』エレアがいて、長机の端に座って何やら難しそうな本をいくつも重ねており、何かの研究をしているようだった。
「ここ、使わせてもらうぞ。」
エレアから見て左斜め前の方向、長机の対角線上にシュタイナーは座った。
「どうぞ。」
エレアはぶっきらぼうに返した。
「なんの研究をしているんだ?」
シュタイナーはふと興味を持って尋ねた。
「あなたには関係ないでしょ。」
エレアの突き放した言動に、シュタイナーはため息をついてエレアの胸元の方に視線をやりながら言った。
「50年もあったのに全く成長してないな、お前は。」
「……殺されたい?」
エレアは困惑した後、その意味を理解して顔を少し赤らめた。シュタイナーを睨みながら平らな胸元を隠して言う。
「はぁ……なんでこんな人を魔王様は選んだのかしら。」
「お前、自分じゃなくてエスタが選ばれたからって50年もしつこいぞ。」
「あなたのことよ!もうちょっとまともな人間を選んでほしかったわ。」
「まともな人間ならここまで一人で来たりしないがな。それで?」
「それでって何?」
「なんの研究をしてるんだ?」
するとエレアはため息をついて、仕方なさそうに話した。
「人間や魔族、エルフ、ドワーフその他の種族の蘇生について。」
「蘇生?」
「そう。一度死んだ、もしくはほとんど死んでいる生物をもう一度生き返らせる蘇生。ゾンビみたいなのじゃなく、ちゃんとね。」
「それはまたどうして?」
「不老で生きていると、だんだん生と死の感覚がおかしくなってくるの……あなたもそのうちわかるわ。生物の生き死にを客観的に観察して、命というものの本質に近づきたいと思った、それだけ。」
「魔王と『四天王』は不老だが部下は違うだろ?そんなに感覚が狂うものか?」
「部下たちには親愛みたいな感情は抱かないようにしているわ。そんなもの持っていたら仕事にならないもの。当然、身近な人が死ぬという機会はほとんどないわね。」
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