『Phantom』の扉

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『Phantom』の扉

――空に透き通るような青い月が浮かぶ夜―― ビル群の中、車の往来の激しい都会の大通り。 その上に架かる広い歩道橋の上。 夜だというのに、サングラスを掛けた男性二人が揉めている。 「もう〜! どういう事だよ、ハル」 「いや、あの店なら、航輝(こうき)が『知り合いだから予約してやるよ』って言ったから頼んだんだよ。 そしたら、1日 間違えてたらしくて、昨日の予約してたんだと。 で、店から『来なかったけど』と連絡来たって。 今日はもう予約いっぱいで無理だったって、すっげー謝られたんだよ」 「航輝、あいつ、今度 高級焼肉奢らせる刑だな! で、他の店探したけど、どこも予約満席だったと」 「どうしよう? 連休中日(なかび)の日曜だし。どこも難しいんだよな」 「仕方ないよな……お前に全部任せっきりにしてた俺も悪いし。気にすんな」 大きく溜め息をつきながら、歩道橋の欄干に(もた)れるアキ。 その隣にハルがしゃがみ込む。 学生の頃、バレーボールをやっていて、芸能事務所にスカウトされ、モデルデビューをしたハル。 190センチ程の長身。 仲間からは『電柱』『目印』などと不名誉なあだ名をつけられて来た。 加えて、眉尻の上がった男らしい眉毛に『爽やか好青年』を絵に描いたような、端整な顔立ち。 目立たぬ筈はない。 更に芸能人になり知名度も上がったので、どんな変装をしたところで、すぐに見つけられてしまう。 そんな理由から、誰かと外に居る時は、背中を屈めたり、座り込んだりするのが癖になった。 都会の夜は、どこも人の往来があり、この歩道橋もずっと人が行き交っている。 アキは歩道橋の往来に背を向け、欄干に肘をついて、眼下の車の往来をぼんやりと眺めた。 ハルが顔を上げると、アキの濃い茶色の髪が、風に揺れ、普段隠れている耳と首筋が見えた。 「なぁ……もう何か食材買って、俺ん家行く? 俺が何か作るからさ……。 いつもと変わり映えしないけど……」 「うん……でも、今日くらいはハルに負担かけずに、特別ディナーにしようと思ってたのになぁ」
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