19人が本棚に入れています
本棚に追加
『秘密 〜生徒に恋して』の扉
部屋の外で、キーーッという派手な自転車のブレーキ音がして、葉月は窓から外を覗く。
下を見ると、1LDKの簡素なマンションの専用駐輪場に、茶色いクセのない髪の頭が見えて、慌てて入口に走って行く悠也の姿が見えた。
鍵を開けて、悠也が来るのを待つ。
コンクリートの階段を蹴るスニーカーの音がしたと思ったら、インターフォンを連打する音と、ドアノブをガチャガチャさせる音が同時に鳴り響いた。
「うわっ! 開いてた!」
「お疲れ様。別にそんなに慌てて来なくてもいいのに」
「いや、慌てるよ! ずっとバイトだったから、ライン見るの遅れてごめん!
葉月さん、採用試験合格おめでとー!」
悠也が背中の後ろから小さな花束をサッと出し、葉月の眼の前に突き出した。
花束を覗いてみると、明るいオレンジと薄いピンクのガーベラ数本を、清楚なカスミ草が取り囲んでいる。
「葉月さん、前にガーベラ見ると元気になれるから、好きって言ってたから」
「覚えててくれたの? すごく嬉しい。綺麗……。ありがとう」
咲き誇る花たちにも負けないほどの葉月の綻んだ顔に、悠也も満面の笑みだ。
「でさっ、今からお祝い行こっ! 俺が奢るからさ!
実はこの日の為にずっとバイト代の一部を貯めてたんだ。
葉月さんの合格祝いに、豪華ディナーをご馳走するつもりでさ。
去年は、熱出して受験できなかっただろ?だから資金も2倍に増えてるんだぜっ!」
「そうだったの? 嬉しいな〜。じゃ遠慮なくご馳走になろうかな」
「おうっ! もう泥舟に乗ったつもりで任せときな!」
「悠也、それ言うなら『大船に乗った』だよね」
「おぉ、そうだった! もう今日の俺は豪華客船ランクだな」
「よしっ! 頼もしい! じゃ出掛けよう」
最初のコメントを投稿しよう!