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アルゴスの瞳
鉛色の空から白い冷たさが降る季節、黒いコートを着た青年は人混みの中を一人歩いていた。
肌に触れる空気は驚くほど冷たく、青年は体を小さく震わせる。
街はいつもと変わらず、平和で退屈なままだ。
歩いている人間は誰も彼もつまらなそうで、陰気臭くて、ぬるま湯にどっぷりつかった馬鹿みたいな顔をしていた。
『アルゴス1、そっちの状況はどうなってる?』
青年の無線から声が流れる。
「対象を追跡中、まだ動きはありません」
『了解、そのまま追跡を続けろ』
「了解」
無機質な通信を終え、アルゴス1と呼ばれた青年は弱めていた足の速度を戻した。
彼は前を歩くスーツの男を追う、胸の中にはやりきれない気持ちが渦巻いている。
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