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浅黒い肌、端正な顔立ち。 黒縁の眼鏡。匂い立つ色気。 たとえ人となりをよく知らなくても、 彼に瞬時に惹かれる人は、男女問わず多い。 僕もその中の1人だ。 初めて彼を教室で見かけた時、 女の子しか恋愛対象にしていなかった 僕の価値観は、あっけなくぶっ壊れた。 しかし他の人とベクトルの向きは いつの頃からか違ってきてて、 恋焦がれ過ぎる余り、素直に近づけない。 彼の姿を見ようものなら物陰に隠れ、 息を殺し、彼の眼差しの先にいれば 迷わずに目を逸らす。 もしも、彼に笑いかけられた日には、 彼の笑顔も凍りつくくらいの冷たい目で、 彼を見つめ返すかも知れない。 自分でもこれではいけないとわかっている。 それでも、 1年も拗らせた片想いに決着がつかない限り、 たぶん状況は変わらない。 普段から取り巻きの多い彼に、 気にしてもらえるような魅力は、皆無だ。 子供の頃から内気で、 何に対しても消極的だった。 仕方なく、唯一努力が報われる勉強を 頑張ってきた。 というか、それしか生きる望みがなかった。 それゆえに難関のT大に入れたのだが、 そのコミュニティに入れば入ったで、 周りは全身で青春を謳歌していて、 僕はまた取り残された。 どう仲間に入れるのかもわからず、 そもそも仲間に入れてもらえるのかを 戸惑い、悩むばかり。 そしてその青春ど真ん中にいるのが、 僕が片想いしている彼であり、 花道を歩く彼に近づくきっかけも 勇気もないまま、 僕たちは揃って2年生に進級した。
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