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【 出会い 】
「あの……うちに何か御用ですか?」
一条波留は、家の前に膝を抱えて座り込んでいる若い男に声を掛けた。
深くニット帽を被ったその男はゆっくりと顔をこちらに向けた。
その帽子からはみ出した赤茶の髪の隙間から覗く目も透き通る茶色をしている。
(外国の人?)
波留の鼓動が『ドキリ』と跳ねた。
隣に大きなキャリーケースが置いてある。
外国の知人の多い父親の知り合いかもしれない。
その男は、座ったままジーンズのポケットから一枚の写真を出して波留に差し出した。
「? ……」
波留は写真に手を伸ばした。
「コレ……」
そこには、十歳位の自分が写っていた。
「何でこんなもの……」
『ズルッ』
男はそのまま地面に倒れてしまった。
「え? ちょっ……どうしたの」
慌てて腕をつかんだが、波留の手に追える重さではなかった。
すると後ろから声が掛かった。
「波留くん、どうしたんだい?」
父親の忠司だった。
忠司は大学で絵画科の教授で、波留はその助手をしている。
「あ、父さん。帰ってきたらこの人ここに座り込んでいて、今倒れちゃったんです」
忠司はチラリと男を見る。
「エリック……?」
と小さく呟いた。
「お知り合いでしたか?」
「……なわけないな」
ただしは小さく数回首を横に振った。
「彼こんなものを持っていて……」
波留は写真を忠司に渡した。
受け取った写真を見て、再び倒れている男に視線を動かしマジマジと覗き込んだ。
すると、忠司の顔色が見る見る青くなっていった。
「この写真……あの時の。ア、アラン!アランか!」
大声で話し掛けたが、倒れた男はピクリとも動かない。
取り敢えず父親の知り合いであることは確認した。
「とにかく中に……父さん、突っ立ってないで手伝って。僕一人じゃ無理ですよ」
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