01 配信者

1/2
前へ
/37ページ
次へ

01 配信者

 大阪──曽根崎──深夜。酒場通りを繋ぐ路地に街灯はない。片側に工事途中で放棄されたビルの形骸がそびえる。  光の届かない裏道を行く人影がある。和服の女性だ。黒地にモノトーンの紅葉が散る。店を終えたホステスの風情だ。  近頃物騒な界隈を、場に似合わぬ和装が行く。足取りは凛として急がない。出没する連続殺人者にとって、若く美しい女性が見過ごせない獲物であることは確実なのに。  夜の底を草履は滑るように進む。濡羽色(ぬればいろ)のシニヨン。仄かな光を集める白いうなじは薫るようだ。  前方。ゴミ箱の陰に浮浪者が寝ている。殺人者を怖れないのか、自分は対象外と信じているのか、あるいはいっそ殺してほしいのか。無防備にボロにくるまり躰を丸めている。  気にもせず間合いを取ることもせず、通り過ぎようとした足首に、ボロからすばやく手が伸びた。が、それは空を(つか)む。軽やかなステップで女性は(かわ)し、対峙していた。  ボロが持ち上がり、中の暗がりから双眸が赤く光る。赤外線カメラを装備した電子眼だ。立ち上がった浮浪者は首の後ろをボリボリ掻いた。垢にまみれた顔に笑みが浮く。 「きったね~な。臭ぇし」女性は瓜実顔を嫌悪に歪める。  これが連続殺人者の正体…… うんざりした。浮浪者だったとは。いつまでも挙げられないワケだ。しかも。獲物を前にして、赤外線電子眼は有料ライブの配信を開始したようだ。  (ちまた)では奇怪な裏稼業が流行(はや)っている。エログロ映像のナマ配信だ。そんなモノはとうの昔からあるが、直近モノは、レイプ──殺人──解体と、犠牲者が肉片と化すまでやる徹底ぶりだ。世も末の様相を呈している。世も末の映像にはとんでもない高値が付く。マニアにとって垂涎(すいぜん)のオタカラなのだ。
/37ページ

最初のコメントを投稿しよう!

24人が本棚に入れています
本棚に追加