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「善良な住民がせっかく楽しい映画を見てるのに、強引にチャンネルを切り替えて破滅映画にする。りっぱな犯罪じゃないか。精神テロと呼ばれても仕方ない」
「住民は目覚め、たとえ絶望に充ちた現実であろうとも、それを直視しなければならない。HEAVENとかいうフザケた名前の付いた棺桶に閉じ込められて、なにが永遠の命だ。そんなもの、生きている事になるか!」コクマーの口調は怒気を帯びた。
HEAVENプロジェクトの最終目的。それは人類のデータベース化だ。人格をデジタルデータに変換すれば、数十億人をメモリに収容し、コンパクトなロケットに積み込んで宇宙の彼方に飛ばす事ができる。こうして方舟は、迫り来るブラックホールから逃げのびることができる。舟の恒常化システムが稼働する限り、与えられた楽園の中で、人類は充実した人生を永遠に生きることになる。メモリが、人類にとっての新たな宇宙になるのだ──
コクマーの怒声は続く。「麻薬でぶっ飛ぶのと同じだろ。花園でニンフと戯れているつもりでも、本体は薄汚いゴミ溜めでうずくまっている。ヨダレを垂らしてラリッてるんだ」
麻薬の譬えはもっともだ。HEAVEN構築には仮想現実麻薬の技術も応用されている。
「一方で、それが次世代への進化だという議論もある。新たな人類。デジタル生命体ってわけだ」シュウは冷静に、ある学者の論説を返してみる。
「本気でそう思っているかな? ボクを測っているのだろう」
「HEVENのプラス面は、自殺率の減少。社会不安の軽減。マイナス面は──」シュウは相手に続きを促す。
コクマーの目が昏く光る。「現実的努力の放棄。力への従属──相手が神なら従属に抵抗もなかろう。だから宗教の出番なのさ」蔑むように言う。「問題は、HEAVENが二重構造だということだ」一旦言葉を切り、続く言に力を溜める。「バックヤードがあるんだよ。非優遇階層への虐待──どうでもいい連中に対しての苦痛負荷だ。過酷な世界に放り込み、抽出された不安や苦痛を不幸の原型として、優遇階層の識閾下に投影する。投影されたマイナス因子は、ゼロの地平に居る者たちに疑似プラスの幸福感を与える。ああでなくて良かったと」
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