03 目覚めよ!

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「トラウマになる地獄だった。そこから救出してくれたのがデュークだ。恩人なんだ。元の現実(せかい)に戻って、ボクは丸一日泣き続けたよ。震えが止まらなかった。おまけに、元の躰に戻る時、神経接続をしくじった。脊髄が麻痺して歩けなくなった。でも、歩けなくたって、あそこに居るよりマシさ。この頭と10本の指さえあれば戦える。大多数に楽園を提供するために、一部の人間が非人道的な扱いを受けているんだ。これを(ゆる)せるかい? ブーステッドマン」 「今の話はすべて事実だ」保証するように才藤が頷く。 「しかし、キミは──」コクマーに言う。「システムとの接続をよく解除できたものだ」 「試作品のナノマシンドラッグを()んでおいたんだ。一定時間経過後にHEAVENの支配から人格を解放するクスリだ。最近開発された、仮想現実麻薬(VRD)を解毒するナノワクチンを改変したものさ。効くには効いたが、まだ完成品には遠い……」 「教団を調べる必要があるってことか。監督官庁の役人が正面玄関から入ったところで、把握できない案件だ」シュウは応じる。「──それにしても、初対面のオレをそこまで信じていいのか?」 「景宮サンの目の奥には、(くら)い光が見える。ボクと同じだ。辛い経験をしたんだよね……」コクマーの声は沈む。「景宮サンは協力してくれるはずだ。いや、せずにいられない。──我々が持つ情報はすべて提供するよ」 「結果として協力という形になっても、立場上そうは言えない」 「お堅い公務員サンだ」コクマーは薄く喜色を浮かべる。「現在(いま)、日本総本部のHEAVENに対してハッキングの準備をしている。さすがに総本部の防御(ディフェンス)は手ごわい。それでも、ぶち破って、HEAVEN内の住民に真実を伝える。は天国でもなんでもない。裏方の気まぐれ次第で地獄にも変わるイカサマ舞台だ、と。景宮サンには、虐待の証拠になるデータを取って来てほしい。世間に公表するんだ。二面作戦になる」 「〈知恵の樹の実〉をアダムとイヴに与えるのか…… 楽園を追われるは気の毒だな。一つ聞かせてくれ。非優遇階層への非人道的な苦痛負荷さえ中止できれば問題ない。そういうことか?」 「それはできない相談だろう」才藤が口を挟んだ。「天国を維持するためには地獄が必要なんだ」 「どういうことです?」
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