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「オレが独自入手した情報だ。こ難しい部分は省くぜ。HEAVENでは、数%の住民の不幸という犠牲が、残り90%以上の住民を幸福な気分にしている。そういうことらしい」
シュウは才藤に向く。気分の悪いハナシになりそうだ。
青い瞳の男は続ける──
「生きものの意識とは、差異を検出して判定し、行動に出力するモジュールだ。光/影、大/小、遠/近、高/低──差異で世界は成立している。その差異が意識に入力され解析され、行動としてフィードバックされる。する/しない、右/左、好き/嫌い──差異に対する出力。これが行動だ。所詮、ON/OFFの膨大な積み上げの結果が世界であり、ヒト意識の基礎であるということだ」
──意識は差異を解析するために生じた機能。思考とは、解析を行動に変換するための過程。差異により世界は生じる。高/低がついて初めて水が流れるように、差異が世界という流れを生む。
平等とはなんと空虚な概念だろう。平等──均質。差異を無くせばダイナミズムは消え、意識は作動不能になり、世界は無くなる。静止した、光も影も色も無い、均一な虚無に回帰する──
以上は〈差分世界論〉と称する、HEAVENをサポートする基礎理論の一つだ。才藤の語った事に一致する。幸福の制作に差分が適用されたということだ。
「世界の基盤はON/OFFか。結局デジタルだな。そのくらいシンプルだと、むしろスッキリする」
「単純な図式なのさ。苦痛/安楽の差異をデジタル世界に入力する。それは不幸/幸福に直結する。HEAVENでの幸福を鮮明化するために、不幸なキャラクターが必要というわけだ」
才藤の言をコクマーが引き継ぐ。「不幸な人々の生き血を吸って、HEAVENの優待住民は幸福な毎日を送っているのだよ。〈他人の不幸は蜜の味〉という言葉があるだろう。残念ながら、その言葉は脳科学的に正しい」
──搾取による充足。現実も仮想も構造は一緒か。
幸福は相対にすぎない。カタチが無いのだ。これが、ヒトの天国の限界。
「天国から追い出したはいいが、そのあと住民たちをどうするつもりなんだ?」
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