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「これからどうするつもりです?」シュウは才藤に訊く。
「一緒に行ってやりたいが、潜入は単独のほうが有利だ。オレは〈Wake up!〉と一緒にゲリラ戦を続ける。それも公方の望みだろうさ」
「HEAVENからの離脱者はコクマー以外にも居るのですか?」
「知る限りじゃ、外まで逃げたのはアイツ一人だ。システムトラブルで覚醒した例が数件あるが、みな再転移で戻されている。再転移不能の場合、その人格は廃棄される。削除だよ。空になった当人分のスロットには、代わりのダミー人格が挿入される。公式には、HEAVENシステムの事故発生数はゼロになっているからな」
腕時計型端末にロードした教団施設への潜入ルートを、シュウは空間投影スクリーンで再確認した。施設の排水路へ接続する経路は、〈Wake up!〉支援グループが掘削したものだ。
「オレに勝ったことがないなんて言ったがな、景宮。あんなのは所詮、稽古だ。実戦のオマエは捨て身になる。命を捨てるヤツほど強い者はない」
「買いかぶりすぎだ」
「オマエは、戦って死ぬことが家族への償いだと考えている」
家族全員なぶり殺しの中で、少年だったシュウだけが生き延びた。精神防御のため、その記憶の細部は体内ナノマシンが巧妙に隠蔽しているのだ──
「ゼロ課のエージェントなんざ、どいつもロクな過去を背負っちゃいない。私怨を正義に置き換えて戦っているんだ。けどな、生きろよ、景宮。楽しい事だってあるぜ。オマエの強さを利用するゼロ課にも反吐が出るのさ」
「死神の目こぼしも、今度はないかもしれない。相手がデカすぎる」
「死神ってのは、命を捨てるヤツには興味がないらしいぜ」
北西に尖塔が見える。鈍い銀色の切っ先が天を突いている。弱肉強食のジャングルに囲まれた、地上20階の建造物。廃墟に生えた聖なる塔。幸福教団の総本山だ。世界各地に構築されたHEAVENシステム は、あの塔で統轄制御されている。
何処かで、断末魔の叫びがあがった。無情な風が血の臭いを運ぶ。
殺戮が行われている。
関東ジャングルは、今日も無法な夜を迎える──
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