04 礼拝堂

4/7
前へ
/37ページ
次へ
「今の話を日曜礼拝でもやるのか?」 「まさか!」助祭は肩をすくめる。「相当な信心がなければ、ここまでの教えは受容できない。初心者には、、やさしい神サマのオハナシをするのさ」 「信心してHEAVENに入居したつもりが、HELLに回されていた。悪徳不動産屋に苦情は出ないのか?」 「不幸が続くほど後々の恩恵は大きくなる。苦難は、来るべき神の国への試練。そう信じて人々は励むさ。そう思考させることが宗教じゃないか──」  そこで助祭は我に返ったように瞬いた。 「いけない、喋り過ぎた。悪いクセだ」舌打ちする。「ボクの講話は人気があるんだ。つい喋り過ぎてしまう。みんな涙を流して聞くよ。外部の集会なら高額なお布施が出る」 「ああ、とてもありがたいオハナシだったぜ。涙が出そうだよ、可笑しくて。お布施は出さんがな」 「じゃあ、キミの香典で充当しよう」  その言葉がスイッチになり、戦闘が再開された。高速転移した両者が激しく交差する。助祭は笑みを浮かべたまま、圧倒的な自信でバトルを愉しんでいる。  速い。限界まで高められた加速性能はブーステッドに近い。速度差は僅か10%強。おおかたのサイボーグに対する速度差アドバンテージは、ほとんど無いに等しい。しかも、その10%差を埋めて余りある兵器を繰り出してくる。  を飛ばした後の左手首から、鉤型の刃物が3本生える。切れ味抜群な鉤爪(かぎつめ)の出来上がりだ。それが振り下ろされ、突き出される。  実体の鉤爪に対してカマイタチは仮想だ。斬り合いに乗れば、仮想を出力するこちらの体力が消耗する。(かわ)すしかできない。ギリギリの回避。そのたびに新しい傷が増える。傷を致命にしないことで精一杯だ。  弧を描いた鉤先が、シュウの頬に赤い三本線を刻んだ。  勢いでオーバーターンした助祭の背が、一瞬ガラ空きになる。  組み付こうとする。  ガラ空き?  とっさに思いとどまる。──フェイントだ!  聖服の背部を突き破って超硬度カーボンの短針が発射される。その数、数百。  床に転がって回避。  シュウの背後にあった座席は、短針のシャワーを浴びて崩れ、塵になって舞う。  背中に短針銃を装備しているのだ。バックは取れない。  ジョーカーは、分離した助祭の左手に握られたままだ。もがき、熱線を発射するも縛めは解けない。  短針シャワーの追撃が来る。(かす)られた上着の裾が煙と化して散る。 「なんだ、逃げ廻ってばかりか。つまらん。失望したよ、ブーステッドマン。もう終わりにしよう」助祭は上着を脱ぎ裸の上半身を晒した。「神の御許(みもと)へ旅立つがいい。抱きしめて祝福を与えよう」両腕を拡げる。 「遠慮する。男と抱き合う趣味はない」  低い唸りが助祭の胸から発する。白い胸の表面が、チラチラ揺れて見える。  超高速振動!  シュウのカマイタチと同じ原理だ。ただし面振動で、切断が目的ではない。目的は切削。助祭の胸に浮いたのは仮想シュレッダーだ。抱きしめた相手を細片に削り尽くす。
/37ページ

最初のコメントを投稿しよう!

23人が本棚に入れています
本棚に追加