05 HEAVEN

2/8
前へ
/37ページ
次へ
「真澄と過ごした一日は、あっという間に過ぎた。オレはすぐに戻された。このクソッタレな現実に」  才藤の目は虚ろだ。自堕落に弛んだ躰といい、ゼロ課で活躍した彼はもう居ない。  ハナシがどう続くかは想像がつく。才藤は取引を提案され、それに乗った。責める気はない。といって、自由にさせる気もない。 「教団の言いなりになれば、HEAVEN で真澄サンと暮らせるわけか」 「一度あそこで暮らしたら、もう何処にも行けねえ…… オマエも来いよ。一緒に幸せになろうぜ」  そこには家族が居るのだ──とシュウは思う。惨殺された両親と妹が。  HEAVENに転移すれば、きっと彼らは笑顔を咲かせて迎えてくれるだろう。もっとも、こちらは記憶から合成されるイミテーションになるが── 「ビットで組み立てられた家族に、用はないよ。そんな事もわからなくなっちまったのかい、アンタ」 「オレたちはこうして向き合っている。は現実だと思うか?」  シュウは怪訝に眉をひそめる。 「オレたちは二人とも、既にHELLの側に取り込まれていて、こうして無間地獄の戦いに明け暮れている。その可能性は無いのか? 大いにあり得るだろう。実際、どれが現実かなど、どうでもいい事だ」 「オレは、どの世界に立っていようと、同じ事をする。力で支配するヤツらをぶちのめす。そうしないと気が済まないんだ」  ふっ、と才藤の口が嗤った。「それじゃ生きていけねぇんだよ」 「〈Wake up !〉はどうなった?」 「オレの手引きで、教団から使徒兵団が突入したはずだ」 「公安の仕事じゃないのか?」 「この辺りは法治外だからな、警察は寄りつかん」  皆殺しか。コクマーの顔がよぎった。 「ほら、軽蔑しろよ」 「アンタはもうオレの知っている人じゃない。知らない人のことはどうでもいい」 「そうかい。じゃあ、ボチボチいくぜ、景宮」才藤の目が鈍く光る。  対峙するブーステッドマン二人は、同時に高速の世界へ跳んだ。  空気の抵抗が増し、重く粘る油と化す。認識速度も加速(ブースト)し、視界を流れる映像はむしろスローダウンする。  才藤もカマイタチの使い手だ。手刀の表面に衝撃波が生まれ、陽炎のように揺らめく。  一直線に斬り込んでくる。防御無用の真っ向勝負だ。最初の交叉で勝敗は決す。  才藤の(やいば)がシュウの上腕を抉る。シュウの刃は、同時に才藤の胸を貫通していた。  ──どうして!  心臓を外したはずの突きに、才藤は自ら心臓を差し出したのだ。
/37ページ

最初のコメントを投稿しよう!

23人が本棚に入れています
本棚に追加