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床に崩れた才藤に屈みこむ。青い目は空を見つめるばかりだ。
もう言葉を発することはない。だが、死の直前のメッセージが、ナノマシン通信で届けられていた。指定された時差を置いて、聴覚野に言語展開される。
──ばかやろう。狙いをズラそうなんて、相変わらずアマい野郎だ。オレはホンモノの真澄の処へ行く。司教の秘密を教えとくぜ。アイツには未来が見える。ほんの1秒先の未来だがな。気をつけろよ──
最後の言葉をナノ通信で伝えたのは、他人に聞かせたくないからだ。
奥の扉が開く。聞かせたくない当人が、白い聖服姿で現れた。
飛嶋司教。幸福教団のトップ。ネットワークを通じて、世界各地のHEAVEN を統括する男だ。
鷲鼻の両側にギラつく瞳。過剰なほどの自負が漲る。
上腕の傷を庇うように押さえて、シュウは司教に向き合った。才藤がわざと外した一撃はかすり傷だ。その芝居につき合って。
司教の後ろには使徒兵が4人控える。白服は短かめの丈で躰にフィットし、いかにも戦いやすそうだ。情報によれば、部分的な機械強化を受けている。準サイボーグ処置で、人間の精鋭兵士といった腕っぷしだ。
銃器は所持していない。その理由はおそらく二つ。一つは、HEAVENに被弾させないため。もう一つは、飛嶋司教がブーステッドマンをまるで怖れていないということ。
「お出ましだな」シュウは侮蔑の笑みで迎えた。
「〈奥の院〉のネズミか」50がらみの男は、軋るような声を出す。カラスの啼き声に似て不快だ。
「派閥に偏るつもりはないんだがな」
「反HEAVEN派──〈奥の院〉のネズミが、精神テロ組織と組んで破壊工作に来た。だから抹殺した。そういうストーリーになる。オマエの意志などどうでもいい。予定どおりに動いてくれたわ。これで〈奥の院〉を封じられる」
思惑どおりに物事は進んでいるらしい。だが、そんなものに興味はない。問題は──
「才藤とは約束があったのか?」
「もちろんだ。HEAVENに上級の区画を用意しておいた。なのに最後の最後で気持がブレた。戦う前からオマエに負けていた」
「司教サマと違って良心が残っていたのだろう」
「良心? 脳に漂う意識など、膨大な無意識の奴隷だ。無意識の希むものはただの一つ。自己の保存と継続」
「これはこれは、宗教家の言葉とも思えませんよ、大司教サマ。無意識の奴隷から解放されようともがくのが、ヒトの道なのでは?」
「ふん、世の原理も知らぬ青二才が」司教は親指で背後の4人を指す。「見よ、使徒兵だ。選抜された兵士たち。教団のためなら生命も捨てる」
「アンタのためなら、だろ?」
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