05 HEAVEN

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「世界を維持するには、統率者と犠牲者が要る。は尊い犠牲者になることを選んだ。宗教とは、尊い犠牲者を制御するためのコマンドだ」 「兵隊が聞いてるぜ。いいのか?」 「使徒兵の頭は空っぽだよ。人格は抽出されてHEAVENの中だ。空き家になった脳には、代わりにAIが埋め込まれている」  シュウは愕然と司教の言葉を受けとめた。 「人格が……意識が、いずれ帰るための大切な躰じゃないのか?」 「HEAVEN に仮移住後、早い段階で覚醒させ一度戻す。そして、現実(ここ)に帰りたいかを問う。誰もがNOと答える。使徒はみな生前献体をして、正式にHEAVEN の住民になるのだ。永遠(とわ)と引き換えに、脱け殻の肉体を教団に捧げる。契約書にサインもある。合法だよ」 「HELLの住民には、帰りたいか問わないのか? 不公平だろ」 「HELLの住民はHEAVEN を照らす燃料だ。生け贄だよ。生け贄に選択肢はない。世界とは不公平なものだ」  不公平を公平に戻そうとして、いつも戦いが起こる── 「そうやって奪った躰を、ロボットに仕立てるわけか」 「寿命が尽きれば腐るだけの躰だ。その前にの役に立つべきだろう。使徒兵に迷いはない。銀座通りで少年使徒兵二名が自爆した。教団に近づく、水準以上の不審者を排除するようにプログラムしてあった。あれはオマエを標的にしたようだな」 「オレの注意を引くために、子供たちに解剖ショーを()らせたのか──」 「まあ待て」怒りで加速状態に移行しようとしたシュウを、司教は制す。「話は最後まで聞け。いずれオマエの躰はワタシが使うのだから」 「何だと?」 「250年後、世界はブラックホールに呑まれる。HEAVEN を宇宙船(はこぶね)に積んで逃げるのもいいが、ブラックホールの中に入って行けるとしたら、どうだ? 新世界へ行けるとしたら」 「気は確かか?」 「ブラックホールは事象の地平線だ。そのむこうは物理法則が成立しない。だが、こちらも物理法則の呪縛から解き放たれれば、」 「それは、バチカンの仮説なのか?」  バチカンの内奥には、教皇庁科学アカデミーという組織がある。設立は1603年。天文台をもち、最先端の宇宙論が研究される。科学で神と出逢おうとしているのだ。
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