05 HEAVEN

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「希望はあるぜ。100枚のカードの内1枚でも当たりがあれば、充分じゃないか。次にめくるカードの結果はふた通りになる。オレの負けか、それとも勝ちか。五分五分になる」尻をつき壁にもたれたまま言い返す。 「バカか。99:1だろうが」 「次に出る目は二つに一つ。どちらかだ。1:1さ」 「そうやって自分を慰めてろ」  床にジョーカーが転がっている。ナノ通信でステータスを確認する。バッテリー残量はほぼゼロ。熱線など射てないし、飛べもしない。せいぜいライトを点灯させて、それで終わりだ。  どうする──  司教は手を上げる。使徒兵の一人が寄り、抜き身の日本刀を渡して下がる。  柄を握ってかざす。ドームの沈んだ光でも、刀身は凶暴にぎらつく。 「超硬度鋼の一振だ。傷はなるべく狭い範囲にしてやる。蘇生させやすいように」 「それはありがたい。お礼にいいことを教えてやろう。オレは悪運ってやつが強いんだ。何度も死にそこなってる。この勝負も、1枚きりの勝利カードを、100枚の中から引いちまう気がするんだ。気をつけたほうがいいぜ」 「ハッタリが特技か」刀を中段に、じりと間合いを詰める。  片膝を立てて壁にもたれ、けだるく顎を上げて、それでもシュウは不敵に口角を上げる。「どうした。やけに慎重じゃないか。まさか、99が1に怯えているのか?」  司教の頬がピクリと引きつる。 「終わりだ、ブーステッドマン!」踏み込み、確信の突きを放った。  シュウは瞬時に加速(ブースト)した。  1秒後のシュウの姿を、司教の第三の目は捉えている。壁際に残像を置いて右へ回避する。切先はそれを追い、動いた先の標的を確実に貫いた。  だが、標的は幽霊のように消える。そこには誰も居ない。  ジョーカーが、バッテリーの残渣をかき集め、シュウの3D映像を右側へ投射したのだ。司教が貫いた1秒先のシュウは、投射された虚像の方だった。  司教がトリックに気づいた時、残像になりすました実像は懐に跳び込んでいた。衝撃波をまとった手刀(カマイタチ)は司教の強化肋骨をぶち破り、心臓をわし掴みしていた。 「アンタの勝ちはじゃなかったみたいだな。祈りの時間くらい、くれてやるぜ」  司教は茫然と、高みに居る神を仰ぐ。そこへ向けられた言葉は祈りではなかった。聞くに堪えない呪詛だ。  シュウは心臓を握り潰した。  神に準じたと錯覚した男が崩れ落ちる。その胸に刺さった右手を引き抜く。真っ赤に染まった手だ。  ──いったいオレに何をさせるつもりだ、この血みどろの手で……  神のシンボルは無言で見下ろすばかりだ。  ため息混じりに吐き捨てた。「礼は言わないぜ」  使徒兵たちは身じろぎもせず立ちつくしている。  司教が敗れるなど想定外なのだ。対応不能でフリーズしている。    〈待て〉を命じられた番犬どもの間を抜け、シュウは奥の扉をくぐる。求めるデータを入手するために。
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