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「希望はあるぜ。100枚のカードの内1枚でも当たりがあれば、充分じゃないか。次にめくるカードの結果はふた通りになる。オレの負けか、それとも勝ちか。五分五分になる」尻をつき壁にもたれたまま言い返す。
「バカか。99:1だろうが」
「次に出る目は二つに一つ。どちらかだ。1:1さ」
「そうやって自分を慰めてろ」
床にジョーカーが転がっている。ナノ通信でステータスを確認する。バッテリー残量はほぼゼロ。熱線など射てないし、飛べもしない。せいぜいライトを点灯させて、それで終わりだ。
どうする──
司教は手を上げる。使徒兵の一人が寄り、抜き身の日本刀を渡して下がる。
柄を握ってかざす。ドームの沈んだ光でも、刀身は凶暴にぎらつく。
「超硬度鋼の一振だ。傷はなるべく狭い範囲にしてやる。蘇生させやすいように」
「それはありがたい。お礼にいいことを教えてやろう。オレは悪運ってやつが強いんだ。何度も死にそこなってる。この勝負も、1枚きりの勝利カードを、100枚の中から引いちまう気がするんだ。気をつけたほうがいいぜ」
「ハッタリが特技か」刀を中段に、じりと間合いを詰める。
片膝を立てて壁にもたれ、けだるく顎を上げて、それでもシュウは不敵に口角を上げる。「どうした。やけに慎重じゃないか。まさか、99が1に怯えているのか?」
司教の頬がピクリと引きつる。
「終わりだ、ブーステッドマン!」踏み込み、確信の突きを放った。
シュウは瞬時に加速した。
1秒後のシュウの姿を、司教の第三の目は捉えている。壁際に残像を置いて右へ回避する。切先はそれを追い、動いた先の標的を確実に貫いた。
だが、標的は幽霊のように消える。そこには誰も居ない。
ジョーカーが、バッテリーの残渣をかき集め、シュウの3D映像を右側へ投射したのだ。司教が貫いた1秒先のシュウは、投射された虚像の方だった。
司教がトリックに気づいた時、残像になりすました実像は懐に跳び込んでいた。衝撃波をまとった手刀は司教の強化肋骨をぶち破り、心臓をわし掴みしていた。
「アンタの勝ちは正しい流れじゃなかったみたいだな。祈りの時間くらい、くれてやるぜ」
司教は茫然と、高みに居る神を仰ぐ。そこへ向けられた言葉は祈りではなかった。聞くに堪えない呪詛だ。
シュウは心臓を握り潰した。
神に準じたと錯覚した男が崩れ落ちる。その胸に刺さった右手を引き抜く。真っ赤に染まった手だ。
──いったいオレに何をさせるつもりだ、この血みどろの手で……
神のシンボルは無言で見下ろすばかりだ。
ため息混じりに吐き捨てた。「礼は言わないぜ」
使徒兵たちは身じろぎもせず立ちつくしている。
司教が敗れるなど想定外なのだ。対応不能でフリーズしている。
〈待て〉を命じられた番犬どもの間を抜け、シュウは奥の扉をくぐる。求めるデータを入手するために。
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