02 廃都

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 のジョーカーが静音プロペラを回転させて、頭上10メートルを追う。大型昆虫サイズの機体は3D迷彩でステルス化され、肉眼では視認困難だ。  ジョーカーのレンズが捉える映像は、シュウの体内を(はし)るナノマシン群が受信する。視界の隅に開くサブウインドウに表示され、センサーに感知された動体はマーキングされている。  通り過ぎた右側、レストラン跡に2人。前方の宝石店跡には、横倒しのケースとテーブルの陰に2人。逆サイド、瓦礫の山と化した店舗ビルの上に1人。チームらしく情報端末で連絡を取り合っている。  銀座八丁目付近。過去に歩行者天国(ホコテン)が催された辺りだ。シュウは歩みを止めた。 「そろそろ出てきたらどうだ」呼び掛ける。  大通り中央の何も無い空間に、いきなり若い男が出現した。一瞬にだ。  常人には奇跡かマジックに見えただろう。だが、ブーストされたシュウの視力はマジックのタネを悠々と眺めていた。  加速された超スピードで、瓦礫の山からとび出してきたに過ぎない。  金色に染めたショートヘアの男は、パンパンに盛り上がる裸の胸板を誇示した。〈鬼〉と刺繍の入った金ラメのショートタイツにレスリングシューズ姿。この寒空に、MSGのリングに上がるメインイベンター気取りだ。ステロイド製の化物じみた筋肉を見せびらかしたいらしい。  シュウは噴き出しそうになるのを(こら)えた。  金色男はサイボーグ処置を受けている。超スピードで動き、増殖筋肉のブサイクなほど太い腕を振り廻すには、骨格をバイオスチールに取り換える必要がある。  のみを信仰する、支配欲と自己顕示欲が肥大した(バカ)は、ヒーローに憧れてサイボーグやブーステッドになりたがる。憧れを実現できるのは、大金持のドラ息子か犯罪組織(シンジケート)に利用されるマヌケだ。──さて、コイツはどっちだろう。  劇的な登場にも動じないシュウに、金色男は苛立った。アゴをしゃくるようにして言う。「おい、オマエ、ここは地獄通りって呼ばれてるんだ。知らんのか?」 「さあな。銀座通りじゃないのか」 「はあ、田舎モンか。そりゃ昔の呼び名だろ。現在(いま)は地獄通りだ。地獄通りには鬼が棲むんだよ。通り抜けたきゃ、通行料ってのを払わにゃいけねえ」 「鬼か。出遭わなかったな。アンタは鬼の前座か?」  金髪に縁取られた額に血管が浮く。激しかけたが、ふう、と憐れむように息を吐いた。おそらくは取り巻きに余裕を見せるために。 「優男(やさおとこ)クンよぉ。オレは寛大な男なんだけどよお。侮辱は許せねえなあ。鬼はオマエの目の前に居るじゃねえか。鬼というには美男すぎるけどよお」指を組み、これ見よがしにボキボキ鳴らす。「言った事は、もう取り消せねえぜ。償いは、死だ。決まり!」ビシッ、とシュウを指さしては死刑宣告をした。  隠れていたメンバーたちが路上に現れる。ぐるりとシュウを遠巻きにしている。 「そうか。アンタ鬼なのか。鬼のコメディアンか?」  金鬼はキレた。高速転移した。
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