02 廃都

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 獲物はあっという間にミンチだ──金鬼はそう思ったに違いない。  サイボーグとブーステッドでは動きの繊細さが違う。サイボーグが頑丈な鎧をまとう重騎兵なら、ブーステッドは道着一枚の武道家だ。筋肉や骨格をハイテク素材に取り換えたサイボーグに対し、遊走型生体強化ナノマシンが体内を(はし)るブーステッド。岩石と流水の違い。  破壊鉄球のようなパンチがシュウを貫いた、はずだ。が、パンチは空を切った。  優男(やさおとこ)は右に50センチほどズレた場所に居る。金鬼は目をこすった。 「オレは殴り合いなんかしたくないんだけどな」シュウは停戦を申し入れるが、逆に金鬼を逆上させただけだ。 「テメェ、ざけんじゃねえ!」やり直しの右ストレートが返答だ。  弧を描くようにシュウの両腕が動く。合気。相手の力をスカして、そのまま相手に返す古武術。  金鬼はきれいに一回転してアスファルトに叩きつけられた。放った力すべてを、おのれの背中に返されて。  シュウをサポートする強化ナノマシンには、多種の武術がインストールされているのだ。  遠巻きの連中は、あんぐり口を開けていた。こんな状況は初めてなのだろう。  金鬼は路面に尻をつけたまま茫然とシュウを見上げる。ここでようやく頭を使う必要に思い至った。鈍い頭を懸命に廻す。  サイボーグより速いのは── 「アンタ、ブーステッドなのか?」 「通りすがりの優男(やさおとこ)だよ」髪の乱れを直して、シュウは先へ歩みを進めた。  誰も追って来ない。勝ち目のないケンカをしないということは、彼らはまだ良識ある無法者なのだ。  無法者の多くは眼球にカメラを埋め込み、強姦、殺戮、スプラッタのナマ配信を嗜好者たちに売る。サブスク契約をした嗜好者たちは、酒を吞んだりコース料理を味わいながら、あるいは性交のスパイスに猟奇映像を(たの)しむ。料金は高額で、顧客の多くは人生に勝利した紳士淑女たちだ。  金鬼がライブ配信していたなら、即刻中止しただろう。しばらくはネットで笑い者になる。  数分もしないうちに、ジョーカーからアラートが届いた。新たな異変を感知したのだ。  ため息が出た。なるほど地獄通りと呼ばれるわけだ。地獄絵図は連綿と続くか──
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