02 廃都

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 空気を切り裂く音がして、シュウは上体を反らした。喉元スレスレに蹴撃が弧を描く。  音速。ブーステッドだ。濃紺ジャージに同色の目だし帽。  ナノマシンはナノマシンに呼応する。だが呼応による共振はない。同調率が高くの少ないナノは共振が抑制される。──つまり、相手はハイクラスのブーステッドだと白状している。  常人には目視不能な速度で、両者の拳が激しく交差した。  シュウは、突き上げてくる膝を掌でブロックして横へ流す。僅かに回転した胴に組み付いた。腕を()め、サイドから強引に反り投げをうつ。襲撃者はブリッジ上で躰をひねるが脱出できない。受け身をとれず肩口から落ちた。  ガクッと相手の動きが鈍る。 「もういいでしょう。サイトウさん!」腰をホールドした体勢でシュウは言った。  相手の躰から戦闘の緊張が解けた。  シュウは腕をほどいて向き合う。  才藤 デューク。数年前、組んで仕事をしたことがある。彼が失踪する以前のことだ。シュウより年長。ゼロ課の先輩だ。  才藤は目だし帽を剥ぎ取り無精ヒゲに覆われた顔を曝した。頭髪は薄くなっていた。彫の深い顔はやや浮腫(むく)み、青い瞳は精悍さを欠いている。 「相変らずアマいヤツだな。ブレイクしてオレが反撃したらどうする」 「本気で()るつもりなら、刃物か飛び道具でしょう」 「だからアマいんだよ。あそこでもう一発投げだ。そして腕固め」 「才藤サンの必殺コースだ」  はじめて才藤は笑った。自嘲にも見えた。 「あっさりバック取られちまった。強くなったな、景宮(かげみや)」 「躰を動かしてないでしょう。ナマってるだけだ。スパーリングじゃ勝てた記憶がない」  トップレベルのアスリートと同じ。トレーニングを怠れば、ナノとの同調率は低下してしまう。 「ふん。いつのハナシだ…… 精神(サイコ)テロの捜査に来たんだろ。オレが絡んでいると思ったか?」 「ええ、公方(くぼう)もそう見てます。アナタが簡単に死ぬわけがない」 「それでオマエを寄越す、か。食えない女だ。まあ、オレの計ったとおりだがな。確かにここは精神(サイコ)テロ組織、〈Wake up!〉のアジトだよ」  目覚めよ!──という名のテロ組織。その標的は、国際的なプロジェクトと連携する幸福教団だ。
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