戦争中の私と戦争中だったおじいちゃん

3/3
前へ
/3ページ
次へ
「紗智。戦争で負けたら『死』しかないぞ」 「えっ?」 「敵に情けをかけたら『敗北』しかないぞ」 「ええっ?」 「そいつは紗智の敵か味方か?」 「……ええ――……?」  おじいちゃんの糸のように細い目が、カッと見開く。 「敵を許すな。存在すら許すな。自分の命を守るためだ」  いつになくしっかりした口調。腹の底からの力強い声。突然の変わりように戸惑う私。 (いやまあ……敵か味方かと改めて訊かれたら……)  おじいちゃんが晴れ渡った空を見上げる。 「ワシは『敵』を決して許さず容赦しなかったおかげで、あの戦争を生き延びたんだ……」  遠い目でしみじみと。私もつられて晴天を仰ぐ。  青空に、推しの(良すぎる)顔が浮かんだ。  そして思い出した。私にとって、何よりも大切なことを。  今回の舞台が発表された動画で、推しは「この作品は今まで以上のものになると断言します。絶対に観てほしいです。劇場でお会いしましょう」と言ったのだーー。 「……」  私はスマホを持ち直す。  その存在を抹殺撲滅する覚悟で、転売ヤーのアカウントを運営に報告し、高額転売する出品ページを片っ端から開いて『違反報告』をタップしてタップしてタップしまくった。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加