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「紗智。戦争で負けたら『死』しかないぞ」
「えっ?」
「敵に情けをかけたら『敗北』しかないぞ」
「ええっ?」
「そいつは紗智の敵か味方か?」
「……ええ――……?」
おじいちゃんの糸のように細い目が、カッと見開く。
「敵を許すな。存在すら許すな。自分の命を守るためだ」
いつになくしっかりした口調。腹の底からの力強い声。突然の変わりように戸惑う私。
(いやまあ……敵か味方かと改めて訊かれたら……)
おじいちゃんが晴れ渡った空を見上げる。
「ワシは『敵』を決して許さず容赦しなかったおかげで、あの戦争を生き延びたんだ……」
遠い目でしみじみと。私もつられて晴天を仰ぐ。
青空に、推しの(良すぎる)顔が浮かんだ。
そして思い出した。私にとって、何よりも大切なことを。
今回の舞台が発表された動画で、推しは「この作品は今まで以上のものになると断言します。絶対に観てほしいです。劇場でお会いしましょう」と言ったのだーー。
「……」
私はスマホを持ち直す。
その存在を抹殺撲滅する覚悟で、転売ヤーのアカウントを運営に報告し、高額転売する出品ページを片っ端から開いて『違反報告』をタップしてタップしてタップしまくった。
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