1章 久保手山レポート事件

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「きゃー、気持ちいい!」  ビキニ姿の沢田樹里が大喜びで川に飛び込むと、同じくビキニの上にショートパンツ履いている私に水をかけてきた。  8月。  猛暑だなんだと騒がれているけど、この山奥ではそんなギラギラと照り付ける太陽を木々が遮ってくれていた。湧きだした地下水が注ぎこむ川の水は、冷たくて気持ちいい。 「頭いいわね、奈津(なつ)」 「でしょー!」  水しぶきを浴びながら、私は答えた。  大学の課題で民俗学のレポートを書かなきゃならない私は、夏休みに同じ研究室の友人・沢田樹里を誘って、ここ、F県の久保手山に来ていた。  久保手山は、かつて山岳信仰で山伏などの修験僧が通った霊山。  それが令和の時代には、キャンプ場ができていた。  涼やかな木陰も魅力的だが、山間を流れる川は上流とあって水はきれいだし冷たくて気持ちいい。  昨今のアウトドアブームを受けて、一年中使用OKだったが、夏のキャンプにはもってこいだった。だからキャンプを楽しむ家族連れが、私たちの他にも3組ほどいた。  そう。私たちを入れてもたった4組だけ。  こんなに素敵なキャンプ場なのに、毎年のように事故が起こっているからあまり評判は良くなかった。  やたらと「火事に注意!」「水難事故、注意!」なんて看板が目立つ。
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