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都内に住む大学生、満は今日で20歳になった。満は新潟の農村出身で、高校を卒業して東京に移り住んだ。実家を離れるのは寂しいが、東京で働いて立派になるためにはここで頑張らなければならない。
満はマンションにある自分の部屋に戻ってきた。満は帰り道にコンビニで缶ビールと柿の種を買ってきた。20歳になり、今日からビールが飲める。また1つ、大人になれる。
満は手を洗った。満は寂しそうだ。だいぶ東京に住んでいて、慣れているはずだ。それには大きな理由があった。
満は今から9年前に父、巌を交通事故で亡くした。寒い冬、雪でスリップした対向車にぶつかった事が原因だ。満の成長を見たかったのに。残念だ。
10歳、つまり2分の1成人式の誕生日を迎えた時、満と巌はある約束をした。それは、20歳になったら一緒にビールを飲もうと。大人の仲間入りをしたのを祝おうと思って。だが、その夢はかなう事はなかった。
今夜、生まれて初めて自分で酒を買ってきた。だが、誰も飲む相手はいない。寂しい20歳の誕生日だ。交通事故がなければ、こんな事にならなかったのに。巌はもう帰ってこない。遠い空からその様子を見ているだろう。
「はぁ・・・」
満はため息をついた。誰も祝ってくれない。母は新潟にいる。朝に電話をくれたが、できれば巌と話したかったな。
「今日で20歳か」
満はちゃぶ台に座り、缶ビールを開けた。だが、それを誰も見てくれない。初めてビールを口にしようというのに。寂しい誕生日だ。
「満・・・」
と、誰かの声がした。巌だ。もう死んでいるのに。どうして聞こえるんだろう。
「お、お父さん?」
満は辺りを見渡した。満は驚いた。目の前に死んだはずの巌がいる。死んだ日と顔も服も一緒だ。恐らく幽霊になって戻ってきたんだろう。
「約束したよな。20歳になったら一緒に飲もうって。約束を果たしに来たよ」
「ま、まさか・・・」
満は開いた口がふさがらなかった。まさか幽霊となった父と飲むなんて。だけど、嬉しいな。約束を果たしに来てくれて。
「ちょっと待って。コップを持ってくるから」
「ありがとう」
満は棚からコップを取り出した。1人で飲む予定だったのに。だけど、嬉しい。一緒に飲むために会いに来てくれるなんて。
満はコップにビールを注いだ。久々に飲むビール。巌は嬉しそうに見ている。注ぎ終わると満はコップを握った。巌はすでにコップを持っている。乾杯の準備はできているようだ。
「カンパーイ!」
2人はグラスをぶつけて、乾杯をした。2人とも嬉しそうだ。2人は共にビールを飲んだ。
「あっ、柿の種を出すね」
満は柿の種の封を開け、器に盛った。巌はその様子を見ている。どうやら食べたいようだ。
「ビールの味はどうだい?」
柿の種をつまみながら、巌は笑みを浮かべている。
「苦いね」
みんなおいしそうに飲んでいるので、おいしいんだろうなと思ったが、まさか苦いとは。でも、なかなかおいしいな。
「でも、それが大人の味だよ」
「そうなんだ」
この苦さが大人の味なのか。そして、次第に気分がよくなってきた。これが酔いだろうか?
「俺が天国に行ってからどうなった?」
巌は自分が死んでから、満がどんな日々を送ってきたのか聞きたかった。それまで何が起きていたのか、見た事がない。
「中学校に進学して、卒業したら実家を離れたんだ。今は東京の大学で楽しくやってるよ。父さんが死んじゃったけど、元気にしてるよ」
満は巌が死んでからの事を語った。死んでからの事、近所の人の支えで生きてきた。そして、その恩返しのためにも、そして何より、立派になるために東京に旅立った。故郷を離れる事になったけど、それは自分のためだ。自分で決めた道だ。後戻りはできない。
「そうか。頑張っていて嬉しいな。これからも頑張れよ」
「うん」
巌はこれまでの話を真剣に聞いている。色々あったけど、よくここまで育ってくれた。天国に行っても誇れる息子だ。そして今日、共にビールを飲む事ができた。こんなに嬉しい事はない。
いつの間にか、巌は目を閉じている。酔いが回ってきたんだろう。息子と過ごした10年余りの日々を思い出しているんだろうか? それとも、酔いが回ってきたんだろうか? どちらにしろ、満は嬉しくなった。もうできないと思っていた2人で飲む事ができるとは。
次第に自分にも酔いが回ってきたようで、眠たくなってきた。酔って眠るって、こんな感覚なんだな。なかなかいいな。就職したら、もっと飲まされるだろうから、これだけで眠たくなるようじゃまだまだだな。
しばらくすると、巌は目を覚ました。満は幸せそうに寝ている。酔って眠っているんだろう。満の寝顔を見るのは久しぶりだな。きっと巌と過ごした日々を思い出して寝ているんだろう。
真夜中、寝落ちした満は目を覚ました。だが、そこに父はいない。天国に帰ったんだろう。
満は空を見上げた。父はきっと空から見ているだろう。今夜は父に会えてよかったな。でも、生きている時に一緒に飲みたかったな。
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